印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2014年1月23日木曜日

今、印刷会社に『考える力』が必要なワケ

経営戦略の大家マイケル・ポーター氏は、「競争の戦略」において業界の競争構造を分析する「5つの競争要因」というフレームワーク(考える枠組み)を示しました。これに沿って分析すると、印刷業界の競争構造が25年前(印刷業界の最盛期)と現在では大きく異なっていることが分かります。

25年前には、印刷会社の競争業者(競合他社)との差別化は、主に設備や生産スキルによって実現されていました。設備は高額で、またその活用には高いスキルが必要不可欠だったため、他業種からの新規参入は限られていました。買い手(印刷物発注企業)にとっても、販促活動や社内の管理・教育などさまざまな面で印刷物は必要不可欠で、しかもその代替品はありませんでした。売り手(機材や資材のメーカー・販売会社)は、印刷会社が選ぶものでした。

この分析から、この当時の印刷業界は構造的に比較的利益を出しやすい状態だったことが分かります。先日、ある印刷営業の方から「昔は、印刷の仕事だけを真面目にやっている会社が潰れたという話は聞いたことがなかった」というお話しをお伺いしたのですが、その背景には利益を出しやすい構造という特徴があったのです。

しかし、現在では大きく状況が変わっています。電子メディアが印刷物の代替品として広く使われるようになり、その結果買い手(印刷物発注企業)にとって印刷物はなくても良いものという位置付けになりました。また、デジタル印刷機など機材の高機能化・スキルレス化・低価格化により、印刷の内製化を進める発注企業も増えてきています。

買い手の意識が変わるに連れて、競争業者(競合他社)との差別化は価格と納期が中心になりました。その結果、印刷市場への参入障壁も低くなり、インターネットのポータルサイトであるヤフーがラクスルに出資したり、電通オンデマンドグラフィック社がPPO(プロモーションプロセスアウトソーシング)推進協議会を設立したり、といった形で他業種からの新規参入も増えており、今後も増えることが見込まれます。

売り手からの圧力も高まっています。円安が進んだことから輸入している原材料の価格が上がり、そのため印刷機材・資材の価格も値上がり傾向にあります。また、売り手側の経営環境も厳しい状況が続いていることから、売り手側から印刷会社が選ばれるという状況も多くなっています。

印刷業界の競争環境がこのように大きく変わった結果、印刷業界は利益を出すのが難しい構造になりました。つまり、今後景気が良くなったとしても、利益を出しにくい『構造不況』の状況は残念ながら変わりそうもありません。

ところで、経営学者の楠木建 一橋大学大学院教授によれば、長期にわたって利益を実現するための源泉には「競争構造」と「戦略」の2つがあります。利益を出すのが難しい競争構造の業界では、優れた戦略が長期利益の実現に大きく貢献します。つまり、現在の印刷業界では、優れた戦略を『考える力』こそが長期利益の実現に必要不可欠なのです。

そういえば、昨日は新潟の学校アルバム印刷会社 博進堂さん主催のセミナー「2014年 博進堂ゼミナール」に参加させていただいたのですが、その中でも「考える」という言葉が繰り返し使われていたのが印象的でした。参加者は写真館・カメラマンの方が中心だったのですが、写真館さんやカメラマンさんにも考える力が重要とされる時代なのですね。印刷業界もうかうかしていられません。

2014年は、『考える力』を鍛えることで、長期利益の実現に向けて大きなそして力強い一歩を踏み出しましょう!『考える力』強化のお手伝いが必要な際には、お気軽にお声がけください (^ ^)