印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。
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2016年4月8日金曜日

drupa2016に向けて:市場の変化を先取りしよう!

デジタル印刷の進化に伴い、使われる領域が商業印刷からシール・ラベルや書籍、新聞など着々と広まっています。drupa2016をきっかけに、パッケージでもデジタル印刷の利用が広まることが見込まれます。

ところで、デジタル印刷で市場はどう変わるのでしょう?
例えば、商業印刷市場では以下のような変化が起きました:

  • 小ロット化・短納期化
  • 低価格化
  • 激しい価格競争
  • ワークフローの効率化
  • 後加工の内製化
  • 工場スタッフの多能工化/機材のスキルレス化
  • Web to Print の導入・活用
  • 印刷通販市場の拡大/印刷通販会社の増加
  • 印刷物のパーソナライズ/カスタマイズ、など

多くの方が理解されているように、「厳しい経済状況」や「Web利用の拡大」はこうした変化の大きな要因です。私は、デジタル印刷もこれらと同様に変化の大きな牽引役だったと考えています。「小ロット・短納期の仕事を低価格で」という競争を先に仕掛けたのは、デジタル印刷だったからです。この動きに大きく反応したオフセット印刷は急速に進化し、上記の変化を引き起こしたのです。

さて、これらの変化は商業印刷以外の市場、例えばパッケージ市場でも起こるのでしょうか?「厳しい経済状況」や「Web利用の拡大」の影響は、商業印刷でもパッケージでも同じかと思われます。

また、パッケージ分野でも「小ロット・短納期」やパーソナライズ/カスタマイズの動きは見られますし、印刷通販サービスも増えつつあります。そして、これらはデジタル印刷が得意とする分野です。こうした状況を踏まえると、パッケージ分野でも商業印刷と同様の変化、激しい価格競争も含めた変化が起こることが考えられます。

では、その変化にどう対応すれば良いのでしょうか。拙訳書『未来を創る』には、以下2つの課題解決アプローチが紹介されています:

  • 先見型アプローチ:
    • 現在起こりつつある、あるいは未来に起こるトレンドを取り入れることに重きをおく未来志向型アプローチ。市場の変化にも対応できる。
  • バックミラー型アプローチ:
    • 過去の体験に基づいて考え、行動するアプローチ。

drupaでは海外の印刷市場、特にデジタル印刷先進国である欧米市場で起こっている動き、あるいは想定されている変化についての情報を収集する貴重な機会でもあります。drupaではぜひ、先見型アプローチで情報を収集・分析してください。そして、売上・利益増大につながるデジタル印刷戦略を立案・実践しましょう (^ ^)

2013年12月26日木曜日

精工はHP Indigo 20000をどのように活用するのか?

先日、株式会社精工(本社:大阪市北区)のつくば工場にお伺いしました。精工は、創業明治44年、従業員数539名(平成253月現在)・年商92.8億円(平成24年度実績)の軟包装コンバーター(印刷・加工会社)です。

精工は、drupa2012HP社のB2幅連帳式デジタル印刷機Indigo 20000のアジア1号機を導入する(しかも3台同時に!)ことを発表し大きな注目を集めました。今回お伺いしたのは、精工のデジタル印刷戦略についてお教えいただくためでしたが、その前段のはずの事業戦略についてのお話しが面白過ぎて本題には入れませんでした (^ ^; 

実際、Indigo 20000の納期は、12月上旬時点でまだ決まっていないとのことでした。精工ではIndigo 20000をサンプルや校正ではなく商品の生産に使うことを考えていることから、納期が確定しないことには使い方の詳細を詰めることができないようです。これは逆にいうと、使い方についてのアイデアを既に持っているということです。どのような使い方をされるのか、また実機が導入された時点でぜひお伺いしたいと思います。

皆さまにもIndigo 20000を活用したサービスが開始された際に存分にその迫力を味わっていただくため、今回は精工のサービスの特徴を簡単にご説明したいと思います。

精工の大きな特徴として、「商社マインドを持ったコンバーター」という点が挙げられます。これは、第二次世界大戦後(第一次世界大戦前に創業されていますので)の一時期、商社としての活動をしていたことが背景にありそうです。

こうした特徴は、「顧客と商材が多様」といったサービス内容にも表れています(下図参照のこと)。精工は、コンバーターとして印刷・加工サービスを提供していることに加え、独自のルートを通じて世界各国で見つけた印刷・加工用の機材・資材を輸入・販売もしています。その販売先も、青果(特に野菜・果物)の生産者や同業者(コンバーター)、小売業者と非常に幅広くなっています。

小売業者に対してはさらに、店頭での販売を伸ばすアイデアや什器・小物などもあわせて提供しています。また、食品メーカーに対しては、商品開発(例えば、観光名所向けオリジナルパッケージの開発)の支援も行っています。青果の生産者向けに機材・資材を提供しているのは、農業の6次産業化のニーズが高まっているためです。こうした柔軟性の高いスタンスでの取組みは、商社としての経験が活かされたものだと思われます。

今回の取材では林正規取締役にお話しをお伺いしたのですが、林氏の経営スタイルからも「商社マインドを持ったコンバーター」という特徴が伺えます。例えば、「この機械を使ったらどんなことができるのか」という設備発想ではなく、「こんなサービスを提供したいんだけど、それが実現できる機材・資材はないかな」というマーケット発想をされています。

また、「設備投資は5年以内に回収し、どんどん新しい設備を導入する」というお考えだったりもします。これは、拙訳書「未来を破壊する」でも指摘されている「設備のマーケティング寿命は、機械寿命よりも短い」という発想です。新しい設備を導入することは、サービスの品質や競争力向上を実現することにもつながっています。

独自ルートを通じて世界各国で印刷・加工機材や資材をさがすことは、「投資を5年以内に回収・次の設備を導入」というサイクルを回すことにおいても重要な役割を果たしています。設備投資サイクル短縮のためには、安くて新機能を持った機材を見つけることが必要不可欠なためです。

精工の工場には「日本1号機」という機材がゴロゴロしているのですが、これはサービスのアイデアを持って世界各地で最新・安価なものを探している成果なのです。HP Indigo 20000も同じ考え方で導入を決めたそうで、他の機材と同じく「5年での回収」を本気でお考えです。

精工のユニークなところは、最新鋭で安価な機材を持ち、やはり安価な資材を使っていることから非常にコスト競争力が高いにも関わらず、過剰な価格競争はしないというスタンスを保っているところです。実際、入札案件で他社が安く落札する仕事も少なくないそうです。

これは、提案力や情報力なども含めた「課題解決力」に自信があるからだと思います。確かに、いろいろな人やものを繋いだり小売業者に対して販売支援まで行ったりといった商社マインドを持った競争相手は限られています。幅広い視野で市場を見ている(あるいは、競合とは異なった視点から市場を見ている)精工は、印刷・加工部分以外での事業機会も把握し、それらも合わせて実現することで売上・利益を伸ばす方向性を進んでいます。

他にもM&Aや取引先との信頼性向上、知恵と工夫によるコスト削減など興味深い取組みが多々あるのですが、すっかり長くなってしまったのでこれらの紹介は割愛させていただきます。申し訳ありません・・・ただ、本稿を通じて、精工が非常に面白い形でHP Indigo 20000を活用できる可能性が高いコンバーターであることは、ご理解いただけたかと思います。導入後のレポートも楽しみにお待ちください♪

また、今回ご説明できなかったポイントにもご興味のある方あるいは本稿についてご質問などのある方は、お気軽にお問い合わせください (^ ^)

【追伸:精工のデジタル印刷経験について】
今回の記事では、精工のこれまでのデジタル印刷の取組みについて触れるのを忘れてしまいました。申し訳ありません・・・次回の記事で精工のデジタル印刷経験値についてご紹介しましたので、こちらもあわせてお読みください。

2013年6月21日金曜日

印刷会社の競争戦略分析

印刷会社の取組みを『競争戦略』の面から評価・分析すること。
これが、「印刷情報 6月号」(印刷出版研究所)に掲載された記事「ハイブリッド印刷の最新動向 〜 国内市場における成功のポイント」を書いた際の目的のひとつでした。

これまで、「機材の導入・活用」「人材教育」「環境対応」「グローバル展開」「経営の心構え」などさまざまな視点から印刷会社に関する記事が書かれています。しかし、「競争戦略」という視点で書かれた記事は、私の勉強不足もあるかとは思いますが、読んだことがないかと思います。厳しい印刷市場を乗り越えるためには戦略が必要不可欠だと、さまざまなところで言われているにも関わらず、です。

そもそも、競争戦略とはなんでしょう?一橋大学教授 楠木健氏は、著書「ストーリーとしての競争戦略」(東洋経済新報社)で以下のように書いています:
  • 競争戦略は、「誰に」「何を」「どうやって」提供するかについてのさまざまな「打ち手」で構成されています。戦略は競合他社との違いを作るものです。さまざまな打ち手は他社との違いをつくるものでなくてはなりません。
  • しかし、個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略になりません。それらがつながり、組み合わさり、相互作用する中で、初めて長期利益が実現されます。
こうした観点で見ると、これまでの記事は「さまざまな打ち手」の紹介が中心で、「それらがつながり、組み合わさり、相互作用する中で、初めて長期利益が実現される」という部分に十分触れられていなかったようです。

今回、編集者のご厚意によりまとまったページ数をいただけましたので、ハイブリッド印刷に取組まれている印刷会社の競争戦略の分析・評価に取り組みました。その際、楠木教授の「ストーリーとしての競争戦略」という以下の様なフレームワーク(考え方)を使いました:
  • ストーリーとしての競争戦略は、さまざまな打ち手を互いに結びつけ、顧客へのユニークな価値提供とその結果として生まれる利益に向かって駆動していく論理に注目します。
  • つまり、個別の要素について意思決定しアクションを取るだけでなく、そうした要素の間にどのような因果関係や相互作用があるのかを重視する視点です。
こうした視点から競争戦略をまとめたのが、以下に挙げた図になります。四角の部分が「打ち手」、またそれぞれの打ち手をつなぐ矢印が「因果関係や相互作用」になります。こちらは、お茶や海苔、健康食品など向けパッケージ(軟包装)印刷会社 吉村紙業株式会社(東京・品川区)の例ですが、さまざまな打ち手が有機的につながって長期利益を実現していることが分かります。詳細は、「印刷情報 6月号」をお読みください (^ ^)

さて、こうした「競争戦略」の観点からデジタル印刷で成功している印刷会社を分析すると、以下のような共通点が見えてきました。これらの点につきましては、また改めてこちらのブログでご説明したいと思います:
  1. 既存事業とデジタル印刷サービスにシナジー(相乗効果)が出ている。
  2. 営業部門と生産部門が「マーケティング」で協業できている。
競争戦略ストーリーは、自社の戦略を客観的・包括的に分析・評価できる面白いフレームワークです。是非、皆さまも自社の「競争戦略ストーリー」作りに取組むことをオススメします!その際、お手伝いが必要でしたら、お気軽にお声がけください♪