印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。
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2023年5月23日火曜日

この本知ってる? . . . ルネ・マグリット展覧会カタログ "Peintures et Gouaches" (1994年)

 1948年、ベルギーの画家ルネ・マグリットはパリの画廊で個展を開きました。その個展では、「ヴァッシュの時代 (période vache)」と呼ばれる期間(1947年〜48年)に制作された(当時)最新の作品が発表されました。

今回ご紹介する本は、1994年にギャラリー・ロニー・ヴァン・デ・ヴェルデ (Gallery Ronny Van de Velde, ベルギー・アントワープ)で開催された、「ヴァッシュの時代」の作品を中心とした展覧会 "Peintures et Gouaches" のカタログです。


このカタログの魅力は、なんといっても『とても凝ったつくり』です。例えば、作品の図版は全て「貼り込み」です。貼り込みというのは、別の用紙に印刷して本に貼り付ける手法。こうすることで本とは異なる用紙や印刷方法で作品を印刷することができるため、作品の再現性を高めたりできます。1980年代以前の画集には、こうした「貼り込み」が使われた魅力的なものもありました。

他にも、複製されたマグリットの手紙がステープラーでとめてあったり、1948年の展覧会カタログ(複製版)が切り込みが入ったページに挟み込んであったり。本文もオランダ語・フランス語・英語の3ヶ国語表記ですし。単なる展覧会の記録ではなく、情報満載の資料集のようなカタログをつくってしまうところに、このギャラリーのマグリット愛の深さを感じます。



ところで、デアゴスティーニ社アシェット社などが出版している「週刊 XX」のような雑誌は「分冊百科」と呼ばれるのですが、この展覧会カタログを見ていると「写真集やスクラップブックの分冊百科とかもアリかも」と思えてきます。

例えば、好きなアイドルや推しのキャラクターの写真集/スクラップブック。「週刊 松田聖子」「週刊 郷ひろみ」「週刊 峰不二子」とか。毎週、その写真やシール、コンサートカタログ(復刻版)などが発売されて、それらを(初回に発売された)本にどんどん貼っていく。もちろん、雑誌などから自分で切り抜いた写真などを貼ったり、直接サインをもらったりするのもOK!

豪華版も用意されていて、その購読者には直筆サイン入り写真や当時レコード店に飾られていたPOP類、ポスターなどが送付されてきたり。お誕生日とかクリスマスには、直筆メッセージ入りのカードなど嬉しい贈り物が届いたり。

最近は小ロットで写真やシールなどを印刷することもできるので、デビューしたばかりの新人や地下アイドルなどの「週刊 XX」も出来ます。むしろ、その方がお宝感があって面白いかもしれません。まだまだステキなプリントはたくさん出てきそうで楽しみです!

2023年5月9日火曜日

この本知ってる? . . . イタリア未来派の展覧会カタログ "Parole in Liberta"

 "Parole in Liberta" は、1992年にイタリアで開催されたイタリア未来派の展覧会カタログです。たくさんの書籍や小冊子、新聞、カタログなどが図版も交えて紹介されています。何より、未来派らしい動きや音楽を感じることができるステキなデザインの本です(限定1000部)。


ほとんどのパートが黄色の厚手の紙に赤と黒で印刷されていますが、未来派の作家の写真が使われている部分には黒い紙が使われています。その写真は赤い枠で囲まれていてキャプションの文字も赤という、とてもカッコイイデザイン。全体を通して赤が映える、とてもイタリアらしさを感じるデザインです。


この本をさらに魅力的にしているのは、本を綴じるのに使われている2本のボルト。裏表紙側から六角ボルトが差し込まれていて、表紙側で六角ナットを使ってとめられています。本当に2本のボトルだけで綴じられていて、ボルトを外すとバラバラになります・・・


実は、この製本方法には元ネタがあります。イタリア未来派の中心人物の一人、フォルトゥーナ・デペーロ (Fortuna Depero) が1927年に出版した書籍 "Depero Futurista"(通称 The Bolted Book, ボルト本) です。

イタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティが未来派宣言を出した1909年は、後に自動車王と呼ばれるようになったヘンリー・フォードがT型フォードの大量生産を始めた年でもあります。チャップリンの映画「モダン・タイムス」は、1936年に公開されました。工具を使った製本は、こうした時代の空気を反映したものでもあります。

では、現在の空気を反映した製本とはどんなものでしょう?例えば、「AI(人工知能)」を使った製本とか。もちろん、AIで製本の加工精度が高まったり、ミス・ロスが減ったりすることでしょう。

さらに、AIのお陰でこれまで難しかった/できなかった製本ができるようになったりすることも期待したいです。例えば、朝顔や時計草のような蔓性の植物で製本しつつ、その花を咲かせることができるような技術が開発されたり。

機能性の高い製本ができるようになったりするのも良いですね。例えば、会話ができる製本。何世代にもわたって大切にされてきた本が、「あなたのおじいちゃん、このお話が大好きでお母さんに何度も読んでもらってたよ」「このページの落書きは、あなたのお母さんが描いたもの」と教えてくれたり。

まだまだ製本は進化の余地が色々ありそうで面白そうです。ぜひ、製本にも注目しながら本を楽しみましょう!


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2023年5月2日火曜日

この本知ってる? . . . レーモン・クノー「100兆の詩篇」

「地下鉄のザジ」「文体練習」などで有名なフランスの詩人・小説家、レーモン・クノー (Raymond Quneau) は、1961年に「100兆の詩篇」(Cent mille milliards de poemes) という本を出版しました。

これはソネット(14行詩)が10ページにわたって印刷されている本なのですが、行単位でページをめくることができるようになっています。読者は、自分の気に入った行を組み合わせて自分だけのソネットを作ることができます。


ただし、その組み合わせは全部で10の14乗 = 100兆通り(書名にもなっている「100兆」というのは、この数です)。その全てを読んでその中からお気に入りの組み合わせを見つけることは、残念ながら現実的ではありません・・・

この本には、イギリスの数学者アラン・チューリングの「機械が書いたソネットを鑑賞できるのは、機械だけである」といった意味の言葉が書かれています(Seule une machine peut apprécier un sonnet écrit par une autre machine )が、AIなら100兆のソネットを全部読んでその中からお気に入りを見つけることができるかもしれません。もっとも、AIが「お気に入り」を選べるロジック/アルゴリズムを持っていればですけど。

このようにとても面白いコンセプトの本ですが、プリントマニアとして注目したいのは、そのつくり方。こちらは2003年の復刻版ですが、本の「のど」や「小口」から見える行間部分の切り口を見ると、1ページずつ(行単位でめくることができるよう)抜き加工をした後に製本したように思えます。


この本には、名刺などにも使われているケント紙のような厚手の用紙が使われています。ソネット部分の前のページには2つ折りされた大きな用紙が使われていて、行単位でめくれるように加工されたページをしっかりと抑えられるようになっています。こうした仕様も、「抜き加工後に製本」し易いように工夫されているような。

実際、どのように製本されたのか。ぜひ、出版社(フランス・ガリマール社)にお伺いしたいです。

ただ、そんなに簡単なものではなさそうです。というのは、2013年、水声社からこの本の日本語版が出版されたのですが、日本語版では行ごとにめくることができるような加工はされていなかったからです(確か、行間に点線が印刷されていて、読者が自分で切ることができるようになっていたと思います)。プリントマニアとしては、この加工がされた日本語版の出版を期待します!


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