印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2013年12月31日火曜日

印刷業界と紙業界は、一緒に景気回復できない!?

201312月、大企業の景況判断は4期連続で改善、中小企業の景況感も20044-6月期の調査開始以来最高となったと、日銀から発表されました。その一方で、印刷業界では景気回復を実感しているという声はあまり聞かれません。日銀の発表は業況判断DIという指数に基づいたものなのですが、今回の記事では、印刷業界の業況判断DIについて分析してみます。

印刷の業況判断DI について、20124-6月期から20141-3月期(見通し)までの推移をみると、右肩上がりの傾向があることが分かります。20124-6月期は-31,7だったのが20141-3月期(見通し)では-17.6となり、14.1ポイントと大幅に改善しています。

しかし、それでも業況判断はマイナスです。実は、-17.6という数値は、製造業全体の中では最も低いものです。景気が「好転」していると考える印刷会社は増えてはいるものの、「悪化」していると考える企業数はまだまだ多いようです。

ところで、今回、印刷業界と関係が深いパルプ・紙・紙加工品における業況判断DIについてもあわせて分析してみましょう。こちらは20136月までは回復基調にありましたが、その後は悪化傾向にあります。これに対して、印刷は20126月までは横ばい〜微増傾向だったのが、それ以降は回復に転じています。

このように、印刷とパルプ・紙・紙加工品は、景気回復という観点からみると大きく異なる傾向にあります。なんとなく、20126月までは印刷業界を踏み台にパルプ・紙・紙加工品業界が景気を回復し、それ以降は立場が逆転したかのようにも見えます。本来なら、「紙離れ」という厳しい状況を乗り切るため、お互いに支え合うことが求められると思うのですが。

何故、このような状況になっているのでしょう?単なる偶然なのか、それともこのような構造になっているのか。不勉強で私には分かりません。申し訳ありません・・・どなたか是非、お教えいただければと思います m(_ _)m

2013年12月30日月曜日

印刷通販と Web to Print の違い


印刷通販徹底比較というサイトに「世界の印刷通販」という記事を掲載していただきました。それを記念して(笑)、今回は印刷通販とWeb to Print(W2P)の違いを明らかにしたいと思います。さて、1番大きなものとして、それらの構造の違いが挙げられます:

  • 印刷通販:「印刷のアマチュア」による「印刷のプロ」向けサービス
  • W2P:「印刷のプロ」による「印刷のアマチュア」向けサービス

皆さんご存知のように、グラフィックプリントパックはもともと製版サービスを提供していました。Vistaprintは学生が立ち上げたベンチャー企業で、英国の印刷通販会社mooはデザイナーが立ち上げた企業です。印刷通販会社と呼んで良いのか分かりませんが、PPO推進協議会の中心メンバーである電通オンデマンドグラフィックや、Yahoo!が出資するラクスルも印刷業界以外からの参入組になります。

印刷会社から転身したところでも、ウエーブ1996年に新規に印刷業務・1998年に印刷通販を開始、イタリアの印刷通販会社Pixartprinting社は1994年創業・2000年に印刷通販をスタート、と比較的歴史の浅い企業が目に付きます。このように、印刷通販市場は「印刷のアマチュア」によって立ち上げられ、拡大されています。

印刷通販サービス、利用者は「印刷のプロ」が中心です。正確な数字は分かりませんが、国内印刷通販会社の顧客の多くは印刷会社だと言われています。Pixartprinting社(イタリア)では、その顧客の90%程度は印刷会社など商業印刷のプロです。プロが顧客の中心になるのは、印刷通販では印刷用完全データでの入稿が必要になるためです。

これに対して、W2Pは以前から印刷サービスを提供してきた印刷会社や企業内印刷部門(インプラント)など、「印刷のプロ」による提供が中心です。先日視察に行ってきたPRINT13でも、さまざまな企業内印刷部門向けのW2Pソリューションが紹介されていました。W2Pを利用者でみると、総務担当者だったり店舗のスタッフだったり営業担当者だったり、「印刷のアマチュア」が中心となっています。

印刷通販とW2Pの構造の違いは、「利用者が欲しいもの」や「価格設定の際に重視されること」における違いにもつながっています。また、なぜだか利用されている地域にも違いがあります。日本と欧州の印刷会社では、W2Pの利用があまり広まっていない一方、印刷通販の利用は拡大しています。これに対して、米国印刷会社の間では「W2Pは広く利用、印刷通販市場の利用は少なめ」となっています。

その理由については明らかではありませんが、日・欧の印刷市場では価格競争力が、米国市場では費用対効果・成果向上力がそれぞれ重視される傾向が強いのかもしれません。ただ、ひとつ言えるのは、日・欧と米国では異なる方向性の印刷サービスが提供・活用されているということです。印刷通販とW2Pは英語では同じ「Web to Print」ですが、今回分析したようにそのサービスモデルは大きく異なります。そのため、これらに優劣をつけるのは意味がないと思います。

長期利益を実現するために「違いをつくって、つなげる」ことを目指す印刷会社にとって、W2P型サービスモデルを構築することは非常に有効だと考えます。何せ、「印刷のプロ」が提供するのにぴったりなモデルなのですから♪ その企画・実現に当たってお手伝いが必要な方は、お気軽にお声がけください (^ ^)

2013年12月27日金曜日

2013年の記事・講演まとめ

2013年も残すところあとわずか。お陰さまで、本年もたくさんの記事を書かせていただき、また講演させていただきました。記事をお読みいただいた皆さま、講演にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。

以下に、今年雑誌や新聞に掲載していただいた記事や講師を務めさせていただいたセミナーをまとめました。まだ読まれていない記事・ご参加されていない講演などございましたら、お時間がある時に記事や講演記録などをお読みいただけば幸いです。

来年も皆さまの「戦略立案・実践」「新規サービス立ち上げ」を通じた長期利益実現に貢献できますよう頑張りますので、何卒よろしくお願いいたします!

【主な記事など】
  • 2014における印刷市場のトレンドと必要な取組み 〜 2014年を印刷会社の逆襲が始まる年にするために(プリントソリューション2014)
  • デジタル印刷の最新動向とその成功に必要な取組み 〜 JGAS2013から見えてきたもの(印刷情報11月号)
  • 連載:未来を破壊する 〜 ラベル業界への提言(ラベル新聞 5月15日号〜11月15日号・計6回)
  • 中小印刷会社がJGASで注目すべきソリューション 〜 印刷市場の「適者」になるために(印刷情報9月号)
  • 座談会:デジタル印刷の「競争戦略」〜 わが社は「ここで」勝負する!(印刷情報9月号)
  • ハイブリッド印刷の最新動向 〜 国内市場における成功のポイント(印刷情報6月号)
  • 巻頭インタビュー:日本の印刷産業を映し出す ”印刷通販産業”(月刊プリテックステージ増刊 印刷通販Book)
  • いかにして ”未来を破壊” するコミュニケーションプロバイダーになるか(印刷情報1月号)

【主な講演など】
  • 日本印刷機材協議会さま「印刷会社は未来を作れるか 〜 先進企業に見る進路と展望」
  • 日本フォーム印刷工業連合会さま「米国市場視察報告
  • 10→30戦略室「PRINT13およびJGAS2013にみる新規事業機会」
  • JGAS2013:ブライター・レイター山下潤一郎が見るJGAS2013とは
  • JGAS2013:『特集』の司会:
    • 電通 北原利行 氏:パネルディスカッション登壇者がデジタル印刷に対して思いを語る
    • 花王 本間充 氏:クライアントから見た Print+α とは
    • トッパンコミュニケーションプロダクツ 谷本まりの 氏:新女性印刷人誕生
  • 三菱製紙さま「『未来を破壊する』しかけを作るツボ」
  • 神奈川県シール印刷協同組合青年部さま「破壊すべきシール印刷業界の未来」
  • 東京都印刷工業組合 城西支部さま「中小印刷会社が、印刷の未来を破壊する」
  • ジーエーシティさま「長期利益を実現するワークフロー活用法
  • 埼玉県印刷工業組合さま「外へ出て『未来を破壊』しよう! 〜 国内印刷市場の「新しい常識」」
  • 埼玉県印刷工業組合 営業士会さま「『未来を破壊する』印刷営業とは 〜 長期利益を実現するために」
  • デジタルドキュメントサービス研究会(D.D.S.S.)さま「外へ出て『未来を破壊』しよう! 〜 国内印刷会社の「新しい常識」」
  • 東京青年印刷人協議会さま「『未来を破壊する』ためのブランディングのツボ、お教えします!」
  • 東北地区印刷生産技術フォーラム(PEJIT)さま「外へ出て『未来を破壊』しよう!」
  • 富山県青年印刷人協議会さま「外へ出て『未来を破壊』しよう!」

精工のデジタル印刷経験値

前回の記事では、精工のこれまでのデジタル印刷の取組みについて触れるのを忘れてしまいました。申し訳ありません・・・

精工が最初にデジタル印刷機を導入したのは2000年、機種はIndigo社(当時)のOmniusだったそうです。当時は、校正やダミーサンプルの仕事を中心に行っていました。この当たりのことは、HP社のホームページでサクセスストーリーとして紹介されていますので、こちらもあわせてお読みください。

その後、HP Indigo ws4050ws4500エプソン SurePress L-4033A(量産初号機・2号機)などを宮城工場に導入し、デジタル印刷の経験を着々と積んできています。あわせてレーザーダイカッターも導入・活用し、後加工機の部分でもオンデマンド経験値を高めています。

精工は、2012年10月にTSUKUBA2025(つくば第2工場)を竣工、こちらにはHP Indigo WS6600エプソンSurePress L-4033Aが設置されていました(12月初旬時点)。前回の記事でご紹介したHP Indigo 20000は、3台ともTSUKUBA2025に導入される計画です。なお、TSUKUBA2025は、精工の本格的なデジタル印刷生産拠点という位置付けとなっています(宮城工場でもサンプルや小ロット仕事の生産も行っていますが、まだ本格的な生産ではないという認識だそうです)。

10年以上のデジタル印刷の経験を持つ精工は、Indigo 20000の導入によって「本格的なデジタル印刷機による生産体制の確立」という新しい段階に進みます。その際には、5年間で投資を回収するビジネス自体の立ち上げにもあわせて取組みます。Indigo 20000によって、精工の前にはどのような新しい世界が広がるのでしょう?デジタル印刷マニア(笑)の私も本当にワクワクドキドキしてしまいます (^ ^)

2013年12月26日木曜日

精工はHP Indigo 20000をどのように活用するのか?

先日、株式会社精工(本社:大阪市北区)のつくば工場にお伺いしました。精工は、創業明治44年、従業員数539名(平成253月現在)・年商92.8億円(平成24年度実績)の軟包装コンバーター(印刷・加工会社)です。

精工は、drupa2012HP社のB2幅連帳式デジタル印刷機Indigo 20000のアジア1号機を導入する(しかも3台同時に!)ことを発表し大きな注目を集めました。今回お伺いしたのは、精工のデジタル印刷戦略についてお教えいただくためでしたが、その前段のはずの事業戦略についてのお話しが面白過ぎて本題には入れませんでした (^ ^; 

実際、Indigo 20000の納期は、12月上旬時点でまだ決まっていないとのことでした。精工ではIndigo 20000をサンプルや校正ではなく商品の生産に使うことを考えていることから、納期が確定しないことには使い方の詳細を詰めることができないようです。これは逆にいうと、使い方についてのアイデアを既に持っているということです。どのような使い方をされるのか、また実機が導入された時点でぜひお伺いしたいと思います。

皆さまにもIndigo 20000を活用したサービスが開始された際に存分にその迫力を味わっていただくため、今回は精工のサービスの特徴を簡単にご説明したいと思います。

精工の大きな特徴として、「商社マインドを持ったコンバーター」という点が挙げられます。これは、第二次世界大戦後(第一次世界大戦前に創業されていますので)の一時期、商社としての活動をしていたことが背景にありそうです。

こうした特徴は、「顧客と商材が多様」といったサービス内容にも表れています(下図参照のこと)。精工は、コンバーターとして印刷・加工サービスを提供していることに加え、独自のルートを通じて世界各国で見つけた印刷・加工用の機材・資材を輸入・販売もしています。その販売先も、青果(特に野菜・果物)の生産者や同業者(コンバーター)、小売業者と非常に幅広くなっています。

小売業者に対してはさらに、店頭での販売を伸ばすアイデアや什器・小物などもあわせて提供しています。また、食品メーカーに対しては、商品開発(例えば、観光名所向けオリジナルパッケージの開発)の支援も行っています。青果の生産者向けに機材・資材を提供しているのは、農業の6次産業化のニーズが高まっているためです。こうした柔軟性の高いスタンスでの取組みは、商社としての経験が活かされたものだと思われます。

今回の取材では林正規取締役にお話しをお伺いしたのですが、林氏の経営スタイルからも「商社マインドを持ったコンバーター」という特徴が伺えます。例えば、「この機械を使ったらどんなことができるのか」という設備発想ではなく、「こんなサービスを提供したいんだけど、それが実現できる機材・資材はないかな」というマーケット発想をされています。

また、「設備投資は5年以内に回収し、どんどん新しい設備を導入する」というお考えだったりもします。これは、拙訳書「未来を破壊する」でも指摘されている「設備のマーケティング寿命は、機械寿命よりも短い」という発想です。新しい設備を導入することは、サービスの品質や競争力向上を実現することにもつながっています。

独自ルートを通じて世界各国で印刷・加工機材や資材をさがすことは、「投資を5年以内に回収・次の設備を導入」というサイクルを回すことにおいても重要な役割を果たしています。設備投資サイクル短縮のためには、安くて新機能を持った機材を見つけることが必要不可欠なためです。

精工の工場には「日本1号機」という機材がゴロゴロしているのですが、これはサービスのアイデアを持って世界各地で最新・安価なものを探している成果なのです。HP Indigo 20000も同じ考え方で導入を決めたそうで、他の機材と同じく「5年での回収」を本気でお考えです。

精工のユニークなところは、最新鋭で安価な機材を持ち、やはり安価な資材を使っていることから非常にコスト競争力が高いにも関わらず、過剰な価格競争はしないというスタンスを保っているところです。実際、入札案件で他社が安く落札する仕事も少なくないそうです。

これは、提案力や情報力なども含めた「課題解決力」に自信があるからだと思います。確かに、いろいろな人やものを繋いだり小売業者に対して販売支援まで行ったりといった商社マインドを持った競争相手は限られています。幅広い視野で市場を見ている(あるいは、競合とは異なった視点から市場を見ている)精工は、印刷・加工部分以外での事業機会も把握し、それらも合わせて実現することで売上・利益を伸ばす方向性を進んでいます。

他にもM&Aや取引先との信頼性向上、知恵と工夫によるコスト削減など興味深い取組みが多々あるのですが、すっかり長くなってしまったのでこれらの紹介は割愛させていただきます。申し訳ありません・・・ただ、本稿を通じて、精工が非常に面白い形でHP Indigo 20000を活用できる可能性が高いコンバーターであることは、ご理解いただけたかと思います。導入後のレポートも楽しみにお待ちください♪

また、今回ご説明できなかったポイントにもご興味のある方あるいは本稿についてご質問などのある方は、お気軽にお問い合わせください (^ ^)

【追伸:精工のデジタル印刷経験について】
今回の記事では、精工のこれまでのデジタル印刷の取組みについて触れるのを忘れてしまいました。申し訳ありません・・・次回の記事で精工のデジタル印刷経験値についてご紹介しましたので、こちらもあわせてお読みください。

2013年10月30日水曜日

生き残るためのDM


通販ソリューション展では、Webとは直接関係のないDM(ダイレクトメール)の展示も行われていました。そのひとつ、ガリバーブースでは開けやすくて情報量も多い「パタパタメール」(特許申請中)やDMにビンゴの楽しさを組み合わせた「ビンゴメール」(商標登録出願中)、サンプルとパンフレットなどを2点封入可能な「サンプルinメール」など独自性の高いさまざまな「アイデアDM」が紹介されていました。また、これらのDMの効果(レスポンス率)を高めるノウハウ(One to One対応なども含む)についても、事例を交えて説明されていました。

ガリバーの特徴として、DMのレスポンス率を高めるために顧客(印刷物発注企業)と協同でDMを企画、そのレスポンス率を毎回測定・共有し、改善するために継続的に工夫するというパートナー関係を築いていることが挙げられます。上記のようなアイデアDMの中にも、こうした取組みの中から出来たものもあるそうです。

こうした関係を築くことで、ガリバーは過度な価格競争を回避できており、またDMのレスポンス率を高めるノウハウも蓄積できています。一方、顧客企業にとっても、競合との差別化に当たってDMを武器として効果的・効率的に活用できています。ガリバーと顧客企業は、それぞれの厳しい市場環境で生き残るための共闘関係にあるといえます。

ガリバーはまた、新規顧客の開拓に当たって自社で蓄積しているDMのノウハウをWebなどと組み合わせて効果的に活用しています。また、こうした取組みは、DMのノウハウを磨くのにも役立つと考えられます。何せ、効果(レスポンス率)を高めることが、自社の売上アップに直接つながるのですから。

そういえば、今回のガリバーブースもパタパタメールの特徴を伝える作りになっていました。通路に面した側のカベは屏風のような形になっており、「折りたたまれている」というパタパタメールの特徴を表しています。また、通路から見ると(3枚目の写真)カベの全面にパタパタメールの絵が描かれていて、こちらも「大きい!」というパタパタメールの特徴を的確に伝えるデザインになっています。こうしたブース作りもさすがです。

顧客企業の顧客(印刷会社から見ると「顧客の顧客」)に焦点を当てて顧客企業と共闘すること、またDMなど販促用印刷物に関するノウハウを自社の新規顧客開拓に活用すること。ガリバーの取組みをみると、これらは印刷会社が、そして顧客(印刷物発注企業)にとっても生き残るための重要なものであることが分かります。
是非、多くの印刷会社に取組んでいただきたいと思います!