印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2013年5月21日火曜日

日本の印刷通販市場が独特な理由

「日本の印刷通販市場は、海外では見られない独特な形態なのかも」。
先日、ある雑誌から印刷通販市場に関する取材を受けたのですが、その準備をしている中でそのような考えが浮かびました。国内印刷通販市場の特徴として、以下のようなものが挙げられます:

  • 発注者の多くが印刷会社(全注文の半分以上が印刷会社という説も)。
  • オープン型が中心(価格や納期を明示するタイプの印刷通販)。
  • 完全データ入稿中心。
  • 「価格と納期」が競合ポイント。
  • 印刷通販サービスを提供している企業数が多い。
  • 価格比較サイトが多い。
  • 国内市場特化型が中心、など
海外では、Web-to-printを活用するクローズド型サービスで直接顧客から受注するパターンが中心、テンプレートを使っての発注も多いようです。価格比較サイトは(私の不勉強もあるかと思いますが)聞いたことはなく、国境を越えてサービスを提供する企業も目に付きます。海外の有名な印刷通販会社もVistaprint(オランダ)やFylerAlarm(ドイツ)、Pixartprinting(イタリア)など限られており、それほど数も多くないようです(こちらも私が不勉強なだけかもしれませんが・・・)。

では、国内印刷通販市場は何故、このように独特な形態へと進化したのでしょうか?そもそも、先に挙げた特徴の多くは国内印刷市場一般に当てはまります。印刷会社の仕事の多くは他の印刷会社から回ってくる「横持ち」で、特に昨今は「価格と納期」が受注のカギになっています。こう考えると、『日本の印刷通販市場は、国内印刷市場を映し出す鏡』のようです。

ただし、そのまま映し出す鏡ではありません。現在の市場トレンドを大きく反映させた姿を写しだす鏡です。例えば、「価格と納期」が重要な競合ポイントになった結果、「印刷価格比較サイト」という日本独自の仕組みが組み込まれたものになっています。つまり、日本の印刷通販市場が独特な理由は、「国内印刷市場自体が独特で、それを反映しているため」なのです。

もし、印刷通販市場が国内印刷市場を反映させたものならば、印刷通販市場の先行きは必ずしも明るくはありません。ペーパーレス化やさらなる価格競争によって印刷市場の規模や利益率の減少が見込まれる限り、鏡に映る市場も継続的な規模の拡大や利益の増大を実現することはないためです。

では、印刷通販会社あるいは印刷通販市場への参入を考えている印刷会社はどのようにすれば良いのでしょうか?そのヒントは、今月末発行の雑誌に掲載される予定です。また発売されたらこのブログなどで告知しますので、もう少々お待ちください (^ ^)

なお、こちらの写真は先日の通販ソリューション展におけるプリントパックブースです。「安い!」というメッセージが前面に打ち出されていることが分かります。

2013年5月19日日曜日

2013 Japan IT Week 春 の見どころ(詳細編). . . (2)

前回に続いて、2013 Japan IT Week 春 の見どころの詳細をご紹介したいと思います。

3. AR分野の主要プレーヤーがそろい踏み:

これまでもこのブログでは様々な展示会で提案されていたARのご紹介をしてきましたが、今回は注目してきたプレーヤーが一同に介する大変賑やかで華やかなものでした。その結果、これまではAurasmaのエンジンが中心だったのが、技術的にも様々なものが紹介されて選択肢が増えてきているのを感じました。

ただ、各ブースでの紹介は「ARとは何か」の紹介が中心で、そのサービスが他のものと比べてどのような特徴があるのか、(他サービスではなく)そのサービスを採用するとどのようなメリットがあるのか、といった「何故、それを採用すべきなのか」についての説明がありませんでした。

「国内ではなかなかARが立ち上がらない」という声も聞かれますが、その理由のひとつに「どのサービスを選ぶべきか分からない」というものも挙げられるかと思います。是非、主要プレーヤーには各社ARの特徴、他社とは異なる特徴を積極的にアピールすることを通じて、国内AR市場の立ち上げを加速していただくことを期待したいと思います。

4. UI/ UX:紙媒体で培ったノウハウをアプリやWebサイトに適用できそうな:

最近、Web系の雑誌などでも「UI/ UX(User Interface/ User Experience、ユーザーインターフェイス/ユーザー体験)」に関する記事が増えてきていますが、今回の会場でも UI/ UX に関する展示が見受けられました。そのひとつ、フェンリルブースで「UI/ UX」に関するミニセミナーをお伺いしたのですが、その中で「UI/ UX向上のためには「フォントの大きさ」や「アイコンの使い方」などに気を使う必要がある」といったお話がありました。

これは、印刷業界でいうところの『グラフィックデザインのスキル』が求められるということかと思います。先の例はひとつの画面の話ですが、Webサイト全体あるいはモバイルアプリ全体で考えれば『エディトリアルデザインのスキル』も必要になるでしょう。こうした紙媒体で培われたデザインのスキルが、今、印刷会社がITの領域に切り込む武器のひとつになりそうです。

5. HTML5ベースのモバイルアプリ:

5月16日、アップル社は App Store からダウンロードされたアプリケーションの数が500億本を超えたことを発表しました。また、同日、グーグル社からは Google Play からのダウンロード数が480億本に達したことが発表されました。このようにアプリの利用は増えていますが、その開発には手間がかかるため(特に、アンドロイド端末向けの開発)、本格的なアプリの提供は大手企業が中心となっています。

これまでのアプリ(ネイティブアプリ)は、iPhone向けはC言語・アンドロイド端末向けはJavaと異なるプログラミング言語で開発する必要がありました。また、アプリの動作確認は各端末で行う必要があるため、特に種類の多いアンドロイド端末向けの動作確認には多大な時間とコストがかかります。

これに対してHTML5ベースのアプリは、一見アプリなのですが、実はブラウザーを立ち上げてコンテンツを表示するものとなっています。そのため、iPhone/アンドロイド端末とも基本的には問題無く動作するようになっています。

今回の会場では、いくつかのブースでHTML5ベースのアプリに関する提案が行われていました。このHTML5ベースのアプリは、開発の手間とコストを大幅に削減できる可能性があります。しかし、現時点ではHTML5ベースアプリの表現力は限られています。例えば、iPhoneなどで使われているカバーフローは出来ないようです。こうしたメリット/デメリットを理解した上で取り組むと、新しいサービス機会が見えてくると思われます。

6. 売上アップにつながるフルフィルメント:

Japan IT Week の一環で開催された通販ソリューション展では、「フルフィルメント」がキーワードのひとつでした。例えば、通販ソリューション展で最大のブースを構えたヤマト運輸などヤマトグループでも、「通販事業のフルフィルメントを支援する」という切り口でサービスが紹介されていました。

東通メディアブースでは、フルフィルメントを強化したことで、「わずか数年で売上が2億円から30億円に伸びた」通販会社の事例が紹介されていました。これは、以下4つの要素を連携し最適化を図る「広告連動型フルフィルメント」で実現されたそうです:

  • クリエイティブによる新規顧客開拓
  • コールセンターによる顧客継続
  • 独自システム「通販マーケター」による効果分析
  • 物流による効果的な同梱
印刷業界でもROIの向上が主要なトピックのひとつですが、それを実現するに当たっては印刷物以外の要素にも目を向けると良いのかも知れません。

以上、2回に渡って 2013 Japan IT Week 春 の見どころをご紹介しました。しかし、ご説明不足で分かりにくい部分もあるかと思いますので、その場合にはお気軽にお問い合わせいただければと思います (^ ^) これからも様々な展示会が行われますが、その中で今回ご紹介したテーマがどのように展開していくか、またどんな新しいテーマが現れてくるのか、とても楽しみです!

2013年5月16日木曜日

2013 Japan IT Week 春の見どころ(詳細編) . . . (1)

2013年5月8日〜10日の3日間、東京ビッグサイトで開催された「2013 Japan IT Week」は、来場者数(主催者の発表、速報値)84,534名の大きな展示会でした。展示内容も印刷業界の観点から見ると非常に刺激的なものがたくさんありました。その見どころの概要を前回のブログでご紹介しましたが、今回からその詳細をお伝えしたいと思います:

1. オウンドメディア向けサービス:

このブログでもこちらの記事でオウンドメディアについてご紹介しましたが、今回の展示会ではそれを活用するための様々なツールが提案されていました。

例えば、ゆめみブースでは、オウンドメディアを通じてファンを増やすエンゲージメント・プラットフォーム「Sprocket(スプロケット)」が展示されていました。Sprocketは、ゲーミフィケーションの手法を使うことでサイトへの訪問頻度を高めたりサイト内の回遊率を高めるたりするプラットフォームで、既にベネッセコーポレーションやネスレ日本などで導入されているそうです。

アド・ダイセンブースには、オウンドメディアとDMやチラシといったリアルメディアをつなぐO2Oソリューション「mottoco」が紹介されていました。顧客がDMや屋外広告、デジタルサイネージなどにあるQRコードをmottocoアプリから読み込むことで、いつでも手許に持っておくこと = 「クリップ」することができるというサービスです。これはまだ開発中ですが、夏頃にはスタートする予定だそうです。とても面白そうなソリューションなので開始が楽しみです。

また、様々なサイト内検索エンジンが紹介されていたのも印象的でした。例えば、フォルシアが提案していたカスタムメイドの検索エンジン「Spook(スプーク)」は、サイト内高速商品検索とマーケティング支援ツールの2つの側面を持つソリューションです。5〜6年前からサービスを提供しているそうですが、これまでにるるぶトラベルや日本旅行といった旅行会社、JAL・ANAといった航空界社、ニッセンやカウネットといった通販会社など、様々な業種で採用されています。このうちるるぶトラベルは、このソリューションを導入したことで売上が1.5倍になったそうです。

こうしたオウンドメディアへの来訪を支援したり自社サイト内の回遊率を高めるソリューションは、マーケティングサービスプロバイダーへの転換を目指す印刷会社にとって有効なものだと思います。


2. 「割引」や「お得」を売りにしないO2Oソリューション:

このブログでもこれまで何回かO2Oについて取り上げてきましたが、Web & モバイルマーケティング EXPO でも「O2Oゾーン」が設置されるなど、O2Oは主要トピックのひとつでした。ただ、その多くは「スマホにクーポンやお得情報を配信する」というものでした。

もちろん「安く買いたい」「得をしたい」という消費者が多いことは確かなので、こうしたソリューションのニーズが高いことは理解できます。しかし、個人的には売り手側から見た時に「安売り競争」を回避できるソリューションの方が興味があります。

NSDブースで紹介されていた「FIND! FUKUOKA」というO2Oソリューションは、海外からの観光客の「お役立ち」を目的とした面白いものでした。これは、「FIND」というセンサーを用いたピンポイントPush配信と「翻訳スカウター」という翻訳ソリューションを組み合わせたモバイルアプリになります。

このアプリを使うと、天神、博多駅、博多港などに設置しているデジタルサイネージに近付くと、福岡にある施設のイベント情報などを入手できます。また、ベイサイドプレイス博多」にある施設内の看板や飲食店のメニューにカメラを向けると、日本語表示を英語・韓国語・中国語(繁体語/簡体語)に変換できます。このアプリは韓国で話題になっていて、韓国から福岡にいらっしゃる観光客の多くは、福岡に到着する前に韓国国内でアプリをダウンロードされているそうです。

このアプリは、観光客の観光スポット間の回遊状況を把握することにも役立ちます。こうしたデータをもとに、観光スポット間の移動手段を充実させたり、別のスポットへの回遊を促進したりといった展開も検討されているそうです。

印刷業界でも「地域の活性化」は注目の分野です。「安さ」をキーワードにある場所への誘導を促進するだけではなく、地域内のたくさん場所を訪問(回遊)していただいて楽しい思い出をたくさん作っていただく(その間、美味しいものを食べていただいたり、素敵なお土産を買っていただいたり)というソリューションの開発・提供を通じて、地域の活性化に貢献するサービスも魅力的かと思います。

すっかり長くなってしまいましたので、見どころ(詳細編)の第1回はこのあたりで終わりにしたいと思います。次回は、印刷業界でも話題の「AR」関連の展示などについてご紹介ししますのでお楽しみに (^ ^)

2013年5月9日木曜日

2013 Japan IT Week 春 の見どころ(速報)

昨日(5月8日)から3日間、東京ビッグサイトでは Japan IT Week 春が開催されています、私はこのうち、「Web & モバイル マーケティング EXPO」「通販ソリューション展」「スマートフォン & モバイル EXPO」のエリアを1日掛けて取材したのですが、それでも時間が足りませんでした。出展企業数が多かっただけでなく、提案内容も面白いブースが多すぎました (^ ^;

今回は、その中で見つけた見どころ(特に、印刷業界視点での見どころ)を速報として、とりあえずトピックだけですがご紹介します。少しでも、展示会の盛り上がりや面白さが伝われば幸いです。:
  1. オウンドメディア向けサービス
  2. 「割引」や「お得」を売りにしない O2Oサービス
  3. AR分野の主要プレーヤーがそろい踏み
  4. UI/ UX (User Interface/ User Experience):紙媒体で培ったノウハウをアプリやWebサイトに適用できそうな
  5. HTML5ベースのモバイルアプリ
  6. 売上アップにつながるフルフィルメント
  7. その他のコネタ:
    1. デジタルサイネージやテーブル型(!)MS Surface 向けサービス
    2. 色やフォントで表現力向上
    3. 物流が支える短納期化:「最短4時間、日本各地へ当日配送を実現」
    4. ここまで出来る マーケティングROI分析ツール
    5. 印刷会社のブースを盛り上げるには!?
各項目の詳細は、改めてこのブログでご紹介します。お楽しみに (^ ^)

追伸:実は、上記リストには掲載していない隠し球的なものもあったりします。こちらはまた機会を見つけてご紹介したいと思いますので、もう少々お待ちください♪