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2016年12月12日月曜日

2016年の印刷市場を振り返る:福島県の場合

東日本大震災から5年が経ちました。節目の年ということで、マスコミでも被災地の現状を伝える番組や記事も多かったように思います。皆さんの中にも、さまざまな形で復興に力添えをされた方も多かったと思います。私も復興のお手伝いができればと、この秋はスポンサーという形でWeb広告研究会 東北セミボラ(セミナー&ボランティア)に参加しました。

印刷業界では全日本印刷文化典ふくしま大会10月21日・22日)が開催され、東北地方に注目が集まりました。今回は、福島県中小企業団体中央会が発表する中小企業景況レポートから、福島県の「紙器(紙製パッケージなど)・段ボール箱」と「印刷」の2つの市場概況を振り返ります(9月まで):


  • 2016年1月:

    • 紙器・段ボール箱:堅調感は残念ながら実感できてないのが現状といえる。多品種・小ロット受注でも売上高は何とか維持できたとしても、利益率は下方傾向にあることは否めない。 
    • 印刷:業況が部分的に好転、悪化と入り混じり、見通しは不透明である。また、従来の予測が成り立たなくなっている。
  • 2016年2月:
    •  紙器・段ボール箱:紙器業界も例年になく、厳しい経営状況である。今まで消 費税が上がるたびに、増税後は製品が売れなくなる。まして今度は税率が10%になるので、消費者の財布の紐は固くなるのではと思う。今年は我慢の年。業界全体で結束して頑張っていきたい。 
    • 印刷:例年、3月の年度末に向けた動きが出てくる月だが、大きな動きは感じられない。年度末に期待したいところである。 
  • 2016年3月:
    • 印刷:年度末のかき入れ時としては、業況がまだら模様で年度末の力強さが感じられなかった。
  • 2016年4月:
    • 紙器・段ボール箱:県内紙器段ボール箱業界は、大手工業製品や農産物をはじめ、あらゆる分野において多様な形で使用されている。商品保護はもちろん、機動性等、その役割の重要性は益々高まり私たちの生活の一端として欠かせない存在となっている。我々紙器を取り巻く経営環境は構造的な変化が進んでおり、新たな時代に即応した業界体制を構築すること必要となっている。
    • 印刷:新年度に入り、業界的にも大きな変化は見当たらず、各社とも地道な営業活動で新年度の予算取りに奔走している。 
  • 2016年5月:
    • 紙器・段ボール箱:原材料・副資材ともに高値のまま推移している。小ロットでの受注が多いため生産コスト等経費の増大を招き、業者が次々に廃業に追い込まれる状態。各社とも現在新しい販路を求めて営業活動に余念がないが、新規開拓は時期的に厳しい状況にある。
    • 印刷:円高の進行もあり、前年度同時期に比べると材料費の中の用紙代はやや 低下傾向にあるが、業況は良いとも言えず、各社ともに収益回復に至っていない。 
  • 2016年6月:
    • 紙器・段ボール箱:引き続き、原材料、副資材価格の高止まりや人件費の増大、少子高齢化による後継者不足が課題となっている。
    • 印刷:競争の激化により、利幅は縮小傾向にあり収益面はやや厳しさを増している。
  • 2016年7月:
    • 紙器・段ボール箱:紙器業界は、原発事故以来、依然として風評被害が続いている。景気低迷等から消費者のマインドが大きく低下し、我々小規模事業者に大きな影響を与えている。これから取引先に対しても今まで以上に優れた情報を整理し、新製品の開発を図っていく。 
    • 印刷:復興需要も落ち着いてきており、各社とも売上状況は芳しくないようで ある。今後も低迷が続きそうな見通しである。
  • 2016年8月:
    • 紙器・段ボール箱:消費者の嗜好が多様化、専門化する昨今において、市場ニーズは変化している。小ロット多品種化、新製品開発や販促プロモーションの差別化等、市場ニーズの多層化が進んでいる状況にある。
    • 印刷:例年、8 月は他の月に比べて稼働状況、売上とも低調な月であるが、今 年の夏の景況は特に厳しく感じられた。 
  • 2016年9月:
    • 紙器・段ボール箱:総体的に見て、紙器需要が伸びているという実感がない。福島県にも大勢の観光客が訪れているもののお土産品分野も伸長していない気がする。特に5月の連休明けから 7 月にかけて仕事量が減少している。紙器の中でも貼箱については少量ながら堅調な反面、印刷紙器については減少傾向を払拭できない。今年の中元期では紙器各社も忙しいところと、そうでないところとの格差が大きくなり 2 極化の傾向を否めない。 
    • 印刷:各社とも 8 月に比べ、売上はやや好転しているが、秋口の需要期の力強 さは感じられない。 


上記の景況レポートから、印刷業界注目のパッケージ市場を含む両市場とも1月から一貫して厳しい状況にあることが分かります。そして、厳しい市場環境の理由として以下のような課題が挙げられています:
  • 材料費の高止まり・人件費の増大などのコストに関わる課題
  • 需要の弱さや風評被害、市場の変化といった需要面の課題
  • 利益率低下・後継者不足など経営上の課題
中には「風評被害」といった特有の課題もありますが、多くは全国の印刷会社・後加工会社に共通するものです。もしかしたら、全国の印刷・後加工業界を元気にするヒントが福島県にあるのかもしれません。引き続き、福島県の印刷・後加工の景況に注目していきたいと思います。

2016年11月30日水曜日

2016年の印刷市場を振り返る:北海道・石川県の場合〜新幹線開業効果は!?

昨年(2015年)3月14日、北陸新幹線が金沢まで開業しました。そして今年(2016年)3月26日、北海道新幹線 新青森駅 - 新函館北斗駅間が開業しました。新幹線の開業は、その地域の印刷業界にどのような効果をもたらしているのでしょうか。

前回(東京都・千葉県の場合)に続き中小企業団体中央会の情報にもとづいて、今回は北海道と石川県の2016年の印刷市場動向を分析します(注:8月まで):

  • 2016年1月:
    • 石川県:長い正月休暇もあり、売上・収益とも前年同月より下降した。原因は官公庁の見積もり合わせ・入札も減少している。また、一般企業も1月は少し控えめであった。
  • 2016年2月:
    • 北海道:組合員の業況においては、あまり変化のない通常の2月であった。ただこの先の見通しとしては、一般家庭の消費の回復、観光客の入り込み(インバウンド観光)が大きな意味を持つと考えられる。 (加工紙)
    • 石川県:前年同月と比較すると動きも鈍く、業界全体が静かではあるが、3月後半から4月にかけて昨年と違った付加価値ある収益改善を目指して進行中である。昨年の新幹線開通による波及効果を一過性ではなく、より持続できるように知恵と工夫が我々の業界の今後の課題である。組合脱退者が多くなった理由は、後継者がいない、仕事が少なくなった、新幹線開業による仕事に関係がない、である。
  • 2016年3月:
    • 北海道:昨年の3月と比較して、売上高、販売価格、収益にさほど大きな変化はない。(加工紙)
    • 石川県:仕事上年度末は1年で1番多忙な時期に、新幹線開業関連の仕事と重なり、前年同月以上に多忙な毎日であった。収益も多忙な分だけ伸びたように感じるが、近年の低価格落ちを少しでも改善できるよう心がけたい。個人消費は相変わらず足踏み状態が続き、地域経済もまだ回復の実感は乏しい。
  • 2016年4月:
    • 北海道:昨年同月と比較して大きな変化はなかった。(加工紙)
    • 北海道:平成28年度当初の契約額は昨年度に比べて、契約件数で5件、契約額で約3割の減少となったことにより、毎月の売上高は厳しい状況が予想される。(印刷関連サービス)
    • 石川県:前年同月に比較するまでもなく、業界全体が厳しく新年度と言うのに動きが鈍く、収益も減少していたが、後半より連休前に若干の動きが出てきた感じがある。
  • 2016年5月:
    • 北海道:本年度の契約額が前年対比3割減となったことから、売上高は減少した。(印刷関連サービス)
    • 石川県:印刷でも業種によってバラつきがあり、前年同月から見ると売上・収益も下降で先行き不透明感が強い。個人消費は依然低調である。
  • 2016年6月:
    • 北海道:昨年6月はインバウンド効果の影響で売上、収益とも良好でしたが、今年の6月はかなり厳しい状況である。 (加工紙)
    • 石川県:5月報告と同様、印刷の業種によってバラつきがあり。昨年の新幹線開業効果実績も定着してきたが、更なる波及に努力している。収益状況は決していいとは言えない。
  • 2016年7月:
    • 北海道:7月は天候不順が続いて果物関係の段ボール箱の出荷が悪く、道内一般家庭の消費も悪い。業界としては昨年7月よりも厳しい景況である。(加工紙)
    • 石川県:売上高は昨年同様のようにはいかないが、6月から見れば若干の多忙を感じる。8月もこの調子で頑張りたい。
  • 2016年8月:
    • 北海道:台風の大雨による農作物の被害で、これから流通資材の段ボールカートンに大きな影響が出る気配がある。一般家庭の消費も悪く、紙器段ボール箱の引き合いも厳しいと考えられる。 (加工紙)
    • 石川県:8月は恒例と言っても過言ではないが、お盆・子供の夏季休暇も長く仕事全ての動きが鈍く、昨年同月の売上を維持するのが精一杯である。収益も昨年同月の売上維持には程遠いが収益率も悪い。

北海道と石川県、それぞれの市場動向をまとめると以下のようになります。新幹線開業効果を含め、随分と差があるようです:
  • 北海道市場の概況(加工紙中心):
    • 北海道新幹線開通の効果はあまり感じていない模様。
    • 4月までは前年並み、6月以降は天候不順などの影響で厳しい状況が続いている。
  • 石川県の印刷市場概況:
    • 一定の新幹線開業の効果あり。ただ、さらなる上乗せは進んでいない様子。
    • 月によって業績にバラつきあり。
    • 業種によっても業績にバラつきあり。

北海道と石川県のケースをみる限りでは、新幹線の開業が印刷業界にもたらす恩恵は必ずしも大きなものではないようです。ただ、北陸新幹線・北海道新幹線ともにまだ未開業区間があります。また、2020年に向けて海外からの観光客も増えることが見込まれます。今後の展開にも注目していきたいと思います。

なお、印刷・加工紙以外の市場動向については、以下のサイトをご確認ください:
北海道新幹線車両の陸揚げ作業@函館港
北陸新幹線 グランクラス

2016年11月22日火曜日

2016年の印刷市場を振り返る:東京都・千葉県の場合

気が付けば、11月も下旬となりました。まだ早いかもしれませんが(笑)、これから少しずつ2016年の印刷市場を振り返ってみたいと思います。

さて、全国の中小企業団体中央会は、各地の情報連絡員報告をもとにした中小企業動向を発表しています。今回は、東京都と千葉県の中小企業団体中央会の情報をもとに、2016年1月以降の中小印刷会社の動向をまとめます。一体、どんな1年だったのでしょう(注:現時点では8月までの情報しか発表されていません):

  • 2016年1月:
    • 東京都:組合員の間に業績の良し悪しの二極化が進んでいる。また、都心部では再開発等による立ち退きで廃業する組合員が見られる。
    • 千葉県:1月の県内組合員受注売上高は年末年始休業による稼働日の減少に加え、景況感から来る消費マインドの冷え込み等の影響により、印刷需要は芳しくなかったようです。このような状況下、未だデフレが完全に解消できていません。大企業を中心に昇給や冬季賞与の増額が行われ、一部では消費マインドが上向いていますが、市民全体が実感する程の実質賃金上昇にはまだまだ時間が掛かりそうです。
  • 2016年2月:
    • 東京都:依然として厳しい状況が続いているが、技術対応力、企画提案力を備えた企業は売上を伸ばしている。
    • 千葉県:2月の県内組合員受注売上高は、景況感から来る消費マインドの冷え込み等の影響により、全体としては芳しくなかったようです。但し、全社が悪化しているわけでは無く、中には好調な企業もあります。様々な要素でパイの奪い合いが起きてきていますので、その結果として企業の業績に大きく格差がついてきています。
  • 2016年3月:
    • 千葉県:3月半ば迄の県内組合員受注売上高は、先行き不安な景況感から来る消費マインドの冷え込み等の影響により、全体としては芳しくなかったようです。但し、中には年度末需要を受注し好調な企業もあります。様々な要素でパイの奪い合いが一層激しくなって来ていますので、またデフレになっています。その結果として、企業の業績に大きく格差がついてきていますので、全体の景況感改善は未だ先です。
  • 2016年4月:
    • 千葉県:4月の県内組合員受注売上は、全体として悪かったようです。ここ数年の現象として、旧年度予算の受注品は何が何でも3月末までに納品するよう求められます。その結果、各組合員で仕事が溢れかえる状況が見受けられます。その反動で新年度は全く稼働しない状況が垣間見えますので、印刷資材はとても動きが鈍く、用紙はコピー用紙の売上でほぼ前月に近い売り上げを確保している状況です。
  • 2016年5月:
    • 東京都:当組合で実施している売上動向調査(28 年 1 月~ 3 月)がまとまった。1 ~ 3 月の売上は 103 と前年を上回ったが、4~6月の予測は前年比 98 と先行きの不透明感が拭えない結果となった。
    • 千葉県:5月の県内組合員受注売上は、ほぼ4月の横ばいの数字で一向に景気が改善していない模様です。来日外国人によるインバウンド効果も一時期の勢いが無くなり、国民の消費もデフレの状態が引き続き継続しています。政府も補正予算を組み景気浮揚を目指していますが、将来の社会保障や国の債務等の不安が払しょくできません。これらの結果として消費が上向かず、相変わらず激しい価格競争中。
  • 2016年6月:
    • 東京都:従業員の採用に苦慮する組合員が多い。
  • 2017年7月:
    • 千葉県:ペーパーレス化が徐々に侵食している。紙の出荷量が減っている。しかし、紙メーカーは値上げの効果で増収増益。地方の零細印刷会社への用紙デリバリー・サービスがどんどん縮小している。円高の影響で用紙の価格は下がるはずだが、値下げの動きは無い。
  • 2016年8月:
    • 東京都:業績の良い企業とそうでない企業で二極化している。
    • 千葉県:先行きの暗さは変わらない。紙の出荷量が減っている。しかし、紙メーカーは値上げの効果で増収増益。

東京都・千葉県の両方に共通するトレンドとして以下のような点が挙げられそうです:
  • 全体として市場環境は厳しい。先行きも不透明:
    • 来日外国人によるインバウンド効果も一時期の勢いが無くなり(千葉県・5月)
  • しかし、中には業績の良い企業もあり、二極化の傾向あり:
    • 技術対応力、企画提案力を備えた企業は売上を伸ばしている(東京都・2月)

こうした状況は、他道府県と比べてどうなのでしょう?また、秋以降のトレンドはどうなっているのでしょうか。他地域の動向も確認し、また秋以降の業界動向も引き続きウォッチしたいと思います。

そういえば、2016年は5月末〜6月初旬にかけて、国際印刷機材展 drupa2016 が開催されました。日本からもたくさんの印刷業界関係者が視察し、また終了後の報告会にもたくさんの方がご参加されたと思います。ここで得た情報から、たくさんの厳しい現状を打破するアイデアが浮かんでいれば良いのですが(注:写真はdrupa2016の会場風景です)。

なお、東京都と千葉県の印刷業以外の中小企業動向については、以下のサイトをご確認ください:
  • 東京都中央企業団体中央会 ライブラリー:
    • このうち、「中小企業だより 最新号」「中小企業だより バックナンバー」をご確認ください。
  • 千葉県中小企業団体中央会「中小企業ちば