印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2023年5月2日火曜日

この本知ってる? . . . レーモン・クノー「100兆の詩篇」

「地下鉄のザジ」「文体練習」などで有名なフランスの詩人・小説家、レーモン・クノー (Raymond Quneau) は、1961年に「100兆の詩篇」(Cent mille milliards de poemes) という本を出版しました。

これはソネット(14行詩)が10ページにわたって印刷されている本なのですが、行単位でページをめくることができるようになっています。読者は、自分の気に入った行を組み合わせて自分だけのソネットを作ることができます。


ただし、その組み合わせは全部で10の14乗 = 100兆通り(書名にもなっている「100兆」というのは、この数です)。その全てを読んでその中からお気に入りの組み合わせを見つけることは、残念ながら現実的ではありません・・・

この本には、イギリスの数学者アラン・チューリングの「機械が書いたソネットを鑑賞できるのは、機械だけである」といった意味の言葉が書かれています(Seule une machine peut apprécier un sonnet écrit par une autre machine )が、AIなら100兆のソネットを全部読んでその中からお気に入りを見つけることができるかもしれません。もっとも、AIが「お気に入り」を選べるロジック/アルゴリズムを持っていればですけど。

このようにとても面白いコンセプトの本ですが、プリントマニアとして注目したいのは、そのつくり方。こちらは2003年の復刻版ですが、本の「のど」や「小口」から見える行間部分の切り口を見ると、1ページずつ(行単位でめくることができるよう)抜き加工をした後に製本したように思えます。


この本には、名刺などにも使われているケント紙のような厚手の用紙が使われています。ソネット部分の前のページには2つ折りされた大きな用紙が使われていて、行単位でめくれるように加工されたページをしっかりと抑えられるようになっています。こうした仕様も、「抜き加工後に製本」し易いように工夫されているような。

実際、どのように製本されたのか。ぜひ、出版社(フランス・ガリマール社)にお伺いしたいです。

ただ、そんなに簡単なものではなさそうです。というのは、2013年、水声社からこの本の日本語版が出版されたのですが、日本語版では行ごとにめくることができるような加工はされていなかったからです(確か、行間に点線が印刷されていて、読者が自分で切ることができるようになっていたと思います)。プリントマニアとしては、この加工がされた日本語版の出版を期待します!


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