印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2017年1月30日月曜日

ブライター・レイター流 page2017の歩き方

印刷メディアビジネスの総合イベント page2017 が2017年2月8日〜10日の3日間開催されます @東京・池袋 サンシャインシティ。drupa2016を受けた今回のpageでは、どのような機材が展示され、どのような提案が行われるか。私もとても楽しみにしています。

ところで、前回の記事(広告主の重点課題と課題解決の取り組みの現状(2016年))で紹介しましたように、広告主(印刷物発注企業)は「ブランド価値向上」「デジタルマーケティングの実践」「広告効果の測定・評価」などを課題として挙げています。また、その課題解決に向けて「ソーシャル化」「より良い顧客体験の提供」「Data Driven化」などの取り組みを進めています。

前回の記事にも書きましたが、印刷会社が成長事業をつくるためには、こうした広告主が抱える課題の解決にフォーカスしたサービスが必要です。また、そうした印刷サービスの提供にあたっては、以下のような取り込みを自社でも進めることが有効です。実践を通じて課題解決のノウハウを蓄積できるからです:
  • 自社・自社サービスのブランド力向上
  • 広告効果の測定・評価
  • 印刷サービスのソーシャル化
  • より良い顧客体験の提供
  • Data Drivenな印刷サービスの提供、など

出展企業の機材・資材や提案は、あなたの会社の(顧客の課題解決に役立つ)知見を深めることにどのように貢献するか?こんな観点から出展内容を評価すると、page2017会場で過ごす時間がさらに有意義なものになると思います。ぜひ、page2017を上手に活用して売上・利益増大を実現しましょう!

2017年1月29日日曜日

広告主の重点課題と課題解決の取り組みの現状(2016年)

国内有力広告主の団体日本アドバタイザーズ協会(JAA)が2016年4月に実施した調査によれば、「2016における広告主の重点課題」として取り組むべき上位5項目は以下となっています:
  1. 製品・サービスブランド価値向上
  2. 企業ブランド価値向上
  3. デジタルマーケティングの実践
  4. 広告予算・媒体間配分の最適化
  5. 広告効果の測定・検証
これに対して、多くの印刷会社が注力する「広告活動に付随するコストの削減や工程短縮化」を重点項目をとして挙げた広告主は、上位5項目と比べてかなり少ないという結果でした。印刷会社が売上・利益を伸ばすためには、上位5項目の課題解決に注目した印刷サービスの企画・提供がポイントになりそうです。

では、どんな印刷サービスを企画すれば良いのでしょう?例えば、上記の課題解決に向けて、企業のマーケティング担当者は以下のような取り組みを進めています:

  • ソーシャル化
  • より良い顧客体験(CX)の提供
  • Data Driven化(データの利活用)
  • リアルとウェブの統合化、など

これらを支援する印刷サービスを通じて、ぜひ成長事業をつくりましょう!

2017年1月24日火曜日

【受賞のご報告】独立メディア塾から優秀賞をいただきました!

独立メディア塾に投稿した拙文が、第3回優秀賞(2017年)をいただきました!独立メディア塾は、君和田正夫塾長(元テレビ朝日会長)と関口宏氏(タレント)が設立・運営しているWebメディアです。今回対象となったのは「りんなとコルタナとホロレンズ 日本マイクロソフトde:code2016より」という記事です。ぜひ、お読みください (^ ^)

今回の受賞を励みに益々精進してまいりますので、引き続きのご指導ご鞭撻何卒よろしくお願いいたします。

なお、他の第3回優秀賞受賞記事・レポートもこちらから読むことができます。どれも読み応え・見応え十分です。また、第1回第2回の受賞記事も刺激的な力作ばかりです。ぜひ、合わせてお読みください!

2017年1月20日金曜日

ロックな印刷物:John Lennon Psychedelic Poster by Richard Avedon

1960年代後半はポスターの魅力が大きく高まった時期です。このサイケデリックなジョン・レノンのポスターもこの時期に印刷・販売されました。アメリカのファッション写真家リチャード・アヴェドンが1967年8月に撮影した写真が使われたこのポスターは、アメリカだけで25万枚以上売れ、その成功を受けてヨーロッパや日本でも販売されました。

このポスターはサイケデリックな色でプリントされた写真をもとに作られていますが、その写真はもともと白黒フィルムで撮影されていました。では、パソコンもない時代にどうやって白黒フィルムからカラフルな紙焼きを作ったのでしょう?

アヴェドンはまず使う写真を選び、その写真の白黒ポジフィルムを作りました。続いて、その白黒ポジフィルムとカラーフイルターなどを組み合わせてカラーポジフィルムを作りました。この段階では、白黒写真をカラーフィルター越しに見ているような状態です。普通のカラー写真とは異なる面白い効果が出ていますが、まだまだサイケデリックさが足りません(笑)。

次に、アヴェドンはカラーポジフィルムのソラリゼーションを行いました。露光の際には、さまざまな色の光を使って実験しました。また、メガネの部分にも白黒とカラー2枚のネガを少しズラして重ねる(版ズレが起こったような状態)という工夫をしています。この段階でかなりサイケデリック度は高まっています。

最後に、ダイトランスファーという手法で紙焼きを作りました。その際、サイケデリックな効果をさらに高めるために、ラボのプリント担当者は特別につくった染料を開発・使用しました。アヴェドンという稀代の写真家と優秀なラボの職人が本気で創った写真をもとにしたポスターが、素晴らしくない訳はありません。

ところで、このポスターはアメリカ・イギリス・ドイツ・オーストリア・スイス・日本で販売されました。国ごとにサイズもまちまちだったりしますし、また当時は大きなポスターを大量に輸出したり輸入したりするのも大変だったでしょうから、各国で印刷されたと考えられます。その場合、それぞれのポスターごとに違った味わいがありそうです。ぜひ一度、各国版を一堂に集めてそれぞれの味をじっくり楽しんでみたいものです (^ ^)


2017年1月16日月曜日

株価と印刷市場の関係は?

皆さんもご存知の通り、2016年11月以降株価は大きく伸び、そのトレンドは今年の年初まで続いていました。では、こうした株式市場の活況は印刷市場にどのような影響を与えるのでしょうか。

これを分析するために、2002年〜2014年における以下データの推移を比較したグラフを作成しました(グラフを見やすくするために、2002年を100として指数化しています):


グラフを見ると、この間日経平均は大きく上下していることが分かります。2006年末には2002年末の2倍になりましたが、2008年末・2011年末には2002年末時点の水準にまで落ち込みました。その後、2012年以降は再び大きく伸び、2014年末には2006年末とほぼ同じ水準になっています。

これに対して、印刷市場はほぼ一本調子で縮小しており、2014年は2002年のおよそ7割の規模となっています。つまり、中長期的に見ると、株価と印刷市場規模には相関関係は無さそうです。もちろん、仕事の内容によっては株価との相関性が高い印刷会社もあるでしょう。また、年末時点ではなく年間平均株価を算出してより詳細に分析すれば、もう少し相関が高まるかもしれません。しかし、全体として見た場合には、相関性は低そうです。

売上・利益の増大を目指す印刷会社には、株価の変動に振り回されることなく、2017年も成長事業をつくる取り組みを希望と勇気を持って着実に進めることが必要不可欠です。デジタル時代の印刷物・印刷サービスを企画・提供して、楽しくて明るく前向きな2017年にしましょう!

2017年1月11日水曜日

ロックな印刷物:"Velvet Underground & Nico" アルバムジャケット

1960年代、アメリカでポップアートが大きく花開きました。その中心人物の一人だったアンディ・ウォーホルはこの時期に、「キャンベル・スープ」「マリリン」「エルヴィス」「フラワーズ」といった代表作を描き、「チェルシー・ガールズ」「エンパイア」「スクリーンテスト」といった映画も製作しました。

ウォーホルはまた、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビューアルバム「Velvet Underground & Nico」(1967年)のプロデュースも手掛けました。このアルバムジャケットには、ウォーホルのシルクスクリーン作品「バナナ」とウォーホルの名前スタンプが使われています。

最初に製作されたバージョンではこのバナナはシールになっていて(ちなみに、印刷はシルクスクリーン方式)、貼ったりはがしたりできます。そしてバナナシールをはがすと、その下からはピンク色の新鮮な果肉が現れる仕掛けになっています。しかし、すぐにこのシール式ジャケットは直接バナナを印刷する方式(つまり、シールではないタイプ)に変更されました。

ところで、このバナナシールを使ったジャケットを製作するにあたり、特別な機械が開発されたと言われています。一方、人が手作業で貼っていったという説もあります。私は「手作業説」支持派です。当時の技術では、そこまでの精度を持った加工機を開発するのは難しいと考えられるからです。むしろ、手作業の方が早くて精確にできるかと。

また、もし開発に成功していれば、費用回収のために引き続きさまざまなシール式ジャケットが製作されていても良さそうです。しかし残念なことに、こんな仕様のアルバムは当時他にはなさそうです。加工機の写真や情報も残っていないようですし。

さらに、このアルバムジャケットはゲートフォールド式だったりもします。シールが使われていることもあわせて、ロックバンドのデビューアルバムとしては異例に豪華な仕様です。異例といえば、表(おもて)面にバンド名やアルバムタイトル名の表記がない点もそうです(それらは裏表紙(雑誌的にいうと表4)に書かれています)。

デザイン優先のこのアルバムは、ジャケットの生産コストが嵩んだり、当初の売上がレコード会社の期待に届かなかったりと、短期的には(商業的には)成功しませんでした。ちなみに、発売日(1967年3月12日)から1969年2月14日の約2年間に売れた枚数は58,476枚でした。

ただ、長期的は極めて大きな成功を収めています。この「熟れすぎて一部が黒ずんだバナナ」はヴェルヴェッツのブランディングに重要な役割を果たしています。また、「Velvet Undergound & Nico」は発売以来一度も廃盤になったことがないそうです。もちろん、音楽としての質の高さが主な理由だと思いますが、ジャケットの魅力も無視できません(ロックの世界には「ジャケ買い」という言葉もありますし)。

「Velvet Underground & Nico」の発売50周年となる今年、ジョン・ケイルこのアルバムの全曲を演奏する記念ライブを英国・リバブールで行う計画を発表しています。ゲストを含め、どんなライブになるか楽しみに待ちましょう (^ ^)

2017年1月6日金曜日

drupa2020でデジタル後加工機に期待したいこと

オフセット印刷サービスでは通常、印刷と後加工は別の会社が担当します。しかし、デジタル印刷サービスでは、印刷会社が後加工もあわせて行うケースが大半です。そのため、デジタル印刷サービス向け後加工機は少ない人数でも動かすことができ、かつ職人でなくても品質を保てるよう、自動化・省力化・スキルレス化が進んでいます。

また、デジタル後加工機はデジタル印刷機とセットでの運用が想定されています。drupa2016でも、デジタル印刷機の進化に伴い以下のような動きが見られました:
  • B1サイズ用紙に対応したデジタル後加工機の発表
  • 産業用印刷物向けデジタル後加工機の拡充:
    • 産業用印刷物:パッケージ(紙器・軟包装)、シール、ラベル、など
  • デジタル印刷機との連携性のさらなる向上:
    • 特に、商業印刷市場向けや書籍・雑誌・新聞印刷市場向けなど
    • インライン・ニアラインともに

会場では、以下のような動向も見受けられました:
  • 型・版を使わないデジタル後加工機の増加:
    • レーザーカッター、デジタルニス加工機・箔押し機、など
    • 自動給紙や搬送機能付きで生産性向上も実現
  • 小ロット向け 型・版ありデジタル後加工機の提案:
    • スジ押し加工用
    • 樹脂やプラスチック製スジ押し用テープなどを使ってオンデマンドで型を作成
  • オフセット印刷物にデジタル後加工で加飾するデモ、など

こうしたトレンドを踏まえると、drupa2020では以下のようなデジタル後加工機が期待できそうです:
  • デジタル印刷機の柔軟性に対応できるデジタル後加工機:
    • 特に、パッケージ(紙器・軟包装)など産業用印刷物向け
    • 「型・版なし」「型・版あり」ともに
  • 印刷機の生産性とバランスが取れたデジタル後加工機:
    • 生産性が向上された「型・版なしデジタル後加工機」
  • 印刷機の品質とバランスが取れたデジタル後加工機:
    • UVオフセット印刷機と組み合わせて使える「型・版ありデジタル後加工機」
  • 印刷会社の所有する印刷機や仕事内容に合わせてセミオーダーできるデジタル後加工機、など

私は特に、小ロット対応力の高い「型・版ありデジタル後加工機」の進化に期待しています。印刷の分野では、UVオフセット機といった「小ロット対応力の高い版あり印刷機」が広く使われるようになっています。これと同じことが後加工の分野で起こることは十分に考えられると思いますが、いかがでしょう?

小ロット対応力の高い「型・版ありデジタル後加工機」が登場すれば、柔軟性重視型サービスに加えて品質重視型サービスを実現できることから、印刷会社が提供するサービスの多様性がさらに高まります。そうなれば、過度な価格競争からも脱却しやすくなります。

drupaなど印刷機材展では印刷機の進化に注目しがちですが、drupa2020では後加工機の進化にも注目しましょう!

ところで、添付の写真はdrupa2016のHPブースで紹介されていたSEI Laser社製のデジタル後加工機 PaperOne です。搬送機能付きのレーザーカッターで、プラスチック製テープ(英国 Man Mat社製)を使ったオンデマンドスジ押し機能も付いています。写真は、このスジ押し用の型を取り付けているところです(黄色い部分がスジ押し用プラスチック製テープです)。

2017年1月3日火曜日

ロックな印刷物:14 Hour Technicolor Dream Poster

今から50年前の1967年の夏は "Summer of Love" と呼ばれ、ロックにとって特別な季節でした。ビートルズは「愛こそはすべて(All You Need is Love)」を歌い、ローリング・ストーンズは(iMacのCMにも使われた)「She's a Rainbow」を発表しました。スウィンギング・ロンドン(Swinging London)は、サンフランシスコと並んでその中心でした。

1967年4月29日〜30日にロンドンで開催された "14 Hour Technicolor Dream" も、愛に満ちた夏を彩るイベントのひとつでした。シド・バレット在籍時のピンク・フロイドやオノヨーコ、ソフト・マシーンなどが演奏し、ジョン・レノンやジミ・ヘンドリックスも来場しました。

そのポスターも、とてもロックなものです。シルクスクリーンで印刷されたサイケデリックなポスターは、色使いやグラデーションの出方がすべて異なっています。そもそも、シルクスクリーンでグラデーションを出しているポスターは、おそらくこれが世界で最初のものです。

数年前「ユリシーズ」という音楽雑誌のためにこのポスターをデザイン・製作したマイク・マキナニー氏にインタビューしました。マキナニー氏によれば、このポスターは1,000枚くらい印刷されましたが、同じものは存在しません。ただ、意識的に異なるようにしていたというよりも、「ドラッグをキメながら刷っていたから、同じようにできる訳ないよね(笑)」とのことでした。

印刷は、全く同じものを大量に複製することを得意としています。しかし、バリエーションをつくることで、時代の空気を取り込んだりデザイナーの実験的な試みを表現したりすることもできます。しかも、その際には必ずしもデジタルの力を借りる必要はありません。印刷にはまだまだたくさんの可能性があります (^ ^)

ところで、さまざまな 14 Hour Technicolor Dream のポスターを集めて比べると楽しそうなのですが、2017年時点で残っているものはほとんどありません・・・マキナニー氏も、「テムズ川が溢れたことがあって、手元にあったポスターはその時すべてテムズ川に流されたんだよ」ととても残念そうにおっしゃっていました。ただ、Summer of Love 50周年の今年は、このポスターも含む展覧会がいろいろと開催されそうな気もします。機会をみつけて、このステキなポスターをぜひ見てみてください!