印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2023年6月27日火曜日

このポジフィルム知ってる? . . . 河瀬直美「殯(もがり)の森」

プリントマニアが愛する『プリント』には、印刷物だけでなく映画や写真のフィルムを「プリント」したものも含まれます。今回は、映画の35mmフィルムから作成したポジフィルム(ひとコマ)をご紹介します。


さて、日本を代表する映画監督河瀬直美氏は、1997年に「萌の朱雀」でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)、そして10年後の2007年に「殯(もがり)の森」でグランプリ(審査員特別大賞)を受賞しました。その「殯の森」を制作した際、「ひとコマもがり」という取り組みを実施しました。

当時(2006年6月)の組画(くみえ)ホームページでは、「ひとコマもがり」について「最新作(筆者注:殯の森)を「ひとコマ」フィルム購入で応援するサポーター制度です。奈良を舞台にした河瀬直美の新作映画づくりに、ぜひご参加ください!」と紹介しています。今でいうところのクラウドファンディングみたいな取り組みです。その参加特典は以下の3点でした:

1)実際に撮影された映画の35mmポジフィルムを「一コマ」プレゼント(一口につきひとコマ)
2)奈良県下での特別試写会に無料ご招待
3)映画「殯の森」パンフレットにお名前を掲載

当時の振込用紙によれば、2006年6月29日に5口分(一口2,000円)を振り込んでいました。公開当時に見た「萌の朱雀」などに影響されて8mmカメラで映画を撮ったこともあって(しかも、うまくつくれなかったこともあって(笑))、迷わず参加しました。なお、後日送られてきた会報紙によれば、河瀬監督はその頃ロケハンを行なっていたそうです(クランクインは7月23日)。

参加特典その1「35mmポジフィルム」はカンヌでのグランプリ受賞後、公開前の特別試写会が開催されるタイミングで送られてきました。5口分だったので5コマだったのですが、全部が「森」でびっくりしました。それと同時に、なんとなく「河瀬監督らしいなぁ」とも思いました。


ただ、よく見ると5コマとも全部異なる「森」のポジフィルム。改めてネットに上がっている「ひとコマ」を調べてみても、全てが異なるイメージでした。どうやら、それぞれが1点モノのようです。また、人(俳優さん)が映っているコマもあるようです。とはいえ、映画をご覧になった方ならお分かりになると思いますが、「森」もメイン出演者のひとり(?)なので「森」のポジフィルムでも十分楽しいです。


この映画のパンフレットによれば、「ひとコマもがり」には約2,000人が参加されたようです。この「ひと口もがり」用にどのくらいの数のフィルムを用意したのか、フィルムを選んだポイントは何か、今でもお手元に残っているものはあるのかなど、河瀬監督にお会いする機会があったらいろいろ伺ってみたいです。

そうそう、パンフレットにも名前が載っていました。とても嬉しかったです。カンヌでグランプリを受賞した作品のパンフレットは、時代や国境を越えて広がり、残されると思いますし。ただ、特別試写会は会場が奈良県だけだったので、残念ながら参加できませんでした・・・

いやぁ、プリントって本当にいいものですね!



2023年6月20日火曜日

この招待状/カタログ知ってる? . . . トワイヤン個展@ギャラリー封印された星

1953年5月、パリのギャラリー L'Étoile scellée(封印された星)において、チェコ出身の画家トワイヤンの個展が開催されました。このギャラリーの運営にはシュルレアリスムの法皇アンドレ・ブルトンが運営に関わり、マン・レイメレ(メレット)・オッペンハイムの個展なども開催されました。

このギャラリーは、個性的で美しい招待状/カタログをつくったことでも有名です。例えば、今回ご紹介するこちら。2つの手が繋がった形に抜いてあって、折りたたむと手のひらを重ねたようになるステキなデザインになっています。


この招待状/カタログ、「手の甲」に当たる面にはギャラリー名や展覧会名、会期、展示された作品名などが書かれています。そして「手のひら」面には、アンドレ・ブルトンはもちろん、ジェラール・ルグランバンジャマン・ペレ、ジャン=ルイ・ベドゥアン、ジャン=ピエール・デュプレーなど様々なシュルレアリストの文章が、血管とか手相のように配置されています。


今はパソコンを使えばこういったデザインはできますが、この招待状/カタログがつくられたのは70年前。印刷はもちろん、組版も人力です。ただ、人力のおかげか、曲線で書かれている文章が自然で読みやすい、人に優しいデザインになっています(残念ながら、私はフランス語は読めませんが・・・)。

ところで、この印刷方法は何でしょう?黒々と印刷された文字をルーペで確認する限り、活版印刷のようです。しかし、全て異なる曲線で描かれた複数の文章を活字で組むというのは、かなりの技量が求められそうな。この難易度について、活版印刷に詳しい方に確認してみたいです。

なお、この招待状/カタログの大きさは、開いた状態で約33.5cm x 約17.5cm(2つに折った状態では約23cm x 約15.5cm)。斜めにすれば、A3ノビサイズの用紙に2面付けすることができます。このデザイン、デジタル印刷機で小ロット印刷・抜き加工して、定形外郵便(規格内)でDMとして送ることも可能です。

ギャラリー L'Étoile scellée は残念ながら短命(1952年〜1956年)で終わりましたが、その間に蝶やこうもりの形に型抜きされたものや手彩色されたものなど、たくさんの魅力的な招待状/カタログを制作しました。さすがブルトン先生です。ぜひ、他のものも見てみたいです。

いやぁ、プリントって本当にいいものですね!

2023年6月13日火曜日

この時計知ってる? . . . 篠山紀信 "YURI(立川ユリ), Collector's Collection"

文字盤にポップな写真がプリントされたオシャレな置き時計。大きさは高さ 30cm x 幅 20cm x 奥行き 10cm と少々ボリューム感はありますが、ケースが透明なアクリルなので圧迫感はありません。



文字盤の写真は、日本を代表する写真家 篠山紀信氏の作品「 YURI (1968年)」です。モデルは立川ユリ氏で、この作品は篠山氏の写真集「篠山紀信と28人のおんなたち」(毎日新聞社, 1968年)に掲載されていたり、東京都写真美術館で開催された篠山氏の回顧展「新・晴れた日」(2021年)に展示されたりしたので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。

さてこの文字盤、白いプラスチックの板にカラー写真を「オレンジ(メガネ)」「ピンク(唇)」「黒(その他部分)」の3色に単純化して、(おそらく)シルクスクリーンでプリントしています。インクの発色が良いこともあってとてもポップで、今の時代でも十分魅力的です。

時計がモデルさんの口の部分についているというのも面白いです。時間を見るたびにモデルさんの口元を見ることになり、ドキドキしてしまいますから。そういえば、昭和のころには俳優さんやスポーツ選手の写真が文字盤にプリントされた置き時計や掛け時計がありましたが、時計は基本的に人物イメージの外側に配置されていました。


ちなみに、もとの写真で立川氏が咥えているのはブローバ社のアキュトロン(Accutron)という腕時計。1960年に年に発表された世界初の音叉式電子時計で、非常に高い精度を誇りました。

一方、この置き時計に実際に使われているのは電池式のクォーツ時計。これは東京時計という会社のシリコンクロックという製品で、「日本時計学会誌 44巻」(1967年12月発行)に紹介されている当時最新の技術が使われた Made in Japan のモデルです。


この時計が入っていた箱には「Collector's Collection」というロゴがプリントされています。しかし、Collector's Collection について筆者がネットで調べた限りでは、詳細は分かりませんでした・・・


この置き時計がいつごろ発売されたものなのか、他にどんな置き時計が作られたのか、置き時計以外にどんなアイテムがあるのか。知りたいことはどんどん出てきます。「Collector's Collection」についてご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えていただければと思います。

世の中、たくさんのステキなプリントがあって楽しいです。いやぁ、プリントって本当にいいものですね!

2023年6月6日火曜日

このグッズ知ってる? . . . ローリング・ストーンズ 悪魔のお面

1994年のハロウィン(10月31日)、ローリング・ストーンズはアメリカ・オークランドでコンサートを開催しました。今回ご紹介するお面は、このライブ会場で来場者に配布されたものです。このライブは、アルバム「ヴードゥー・ラウンジ(Voodoo Lounge, 1994年)」発売を受けたワールドツアー「ヴードゥー・ラウンジ・ツアー(Voodoo Lounge Tour)」のひとつでした。

Wikipediaによれば、このツアーは1994年8月1日から1995年8月30日まで約1年で129公演を行い、計約650万人の観客を動員した大規模なものでした。日本公演も東京ドーム(7日間)・福岡ドーム(2日間)が開催されました(観客動員数は合計で約33万人)。

このお面は、10月31日のライブ会場でのみ配布された貴重なものです。紙製でサイズは約35cm x 約20cm。目の部分が半抜きになっていて、もらった人は持ち手(約5.8cm x 約5.4cm)部分を持ちながらお面を付けてライブを楽しむことができます。



加工前のモノを見ると、約48.5cm x 約32cmの用紙に2面付けされたものを型抜きしてつくられていることが分かります。印刷も単色ですし、シンプルなつくりです。表面加工もありません。でも、とてもカッコよいです。私なら、使わずに持ち帰って大事に保存しておきます。あるいは2つもらって、1つはライブ会場で使う用・もう1つは保存用にします(笑)。


この日のライブは録画されていて、その動画は某動画サイトでも見ることができます。ギターのロン・ウッドは、ハロウィンらしくドクロ柄のギターストラップを使い、(おもちゃの)ホネがついたネックレスとこのお面と同じ形のツノを着けて登場!

観客席でもこのお面を付けた人々が踊り狂って大盛り上がり・・・と思いきや、どうやらそうでもなかったようです。時々観客席が映るのですが、あまり(というか、ほとんど)お面を付けている人はいません。そもそも、持っている人もほとんどいません・・・・

本当に会場で配布されたのでしょうか?この日の観客者数は約5万人。全員に配布されたなら、「当日会場で使いました!」というお面がeBayなどに出品されても良さそうなのに、見かけたことはありません。この日のライブに行かれた方、このお面がどんな風に配布され使われたのか、ご覧になったことをぜひ教えてください!

まだ約30年前のグッズ、しかもローリング・ストーンズというスーパーバンドにまつわるグッズなのに、分からないことが色々あります。しかし、そういった分からないことを調べるのも楽しいです。いやぁ、プリントって本当にいいものですね!