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2023年9月5日火曜日

『漆塗り』というオーセンティックな加工 . . . 谷崎潤一郎「春琴抄」

文豪 谷崎潤一郎氏は、皆さんもご存知の通り、本の装丁にもとてもこだわる人でした。今回ご紹介する「春琴抄」(昭和8年, 1933年)もそのひとつ。特徴的なのは、ボール紙に漆を塗ってある表紙。見返しには贅沢に「鳥の子水揉紙」が使われていますが、漆塗りの表紙を楽しめるように、表紙の3分の1くらいにだけ見返し紙が貼られています。


「春琴抄」には『朱漆』バージョンと『黒漆』バージョンの2種類がありますが、朱漆バージョンは試作品で数十部程度しか発行されていないと言われています。表紙の題字は、写真が悪くて銀色に見えますが、蒔絵技法による金箔文字。この文字は、谷崎氏三度目の、そして最後の妻となる根津松子さんの手によるものです。


ところで、訪日外国人観光客向けのアイテムを開発・販売されている方もいらっしゃるかと思います。こうしたアイテムに「漆塗り」という加工をするのはいかがでしょう?「春琴抄」の事例からも分かるように、写真集やご朱印帳などのプリント/印刷物にも「漆塗り」加工することはできます。

漆塗りは、「玉虫厨子@法隆寺」「八橋蒔絵螺鈿硯箱(尾形光琳作)」など数々の日本の文化財にも使われている、とても「オーセンティック(authentic)」な手法です。日本観光のお土産としてぴったりです。

なお、今回写真でご紹介した「春琴抄」は、「朱漆」「黒漆」の両バージョンとも日本近代文学館が発行した復刻版です(朱漆版 1984年, 黒漆版 1974年)。復刻版といっても、複数のオリジナルの初版本を丁寧に研究し、帙や背なども含めて素材・手法などをできるだけ忠実に再現したもので、とてもステキな出来だと思います。


復刻版は今でも古書店などで入手することができ、しかも(こんなに手が込んでいるのに)あまり高い値段はついていませんので、機会があったら実際に手に取ってみてください。「漆塗りされた本も良いなぁ」とうっとりできること請け合いです(笑)

いやぁ、プリントって本当にいいものですね!