印刷物をもっと「つくる」「使う」「残す」ことを支援する、ブライター・レイターのブログです。

2012年10月5日金曜日

TOKYO PACK 2012 レビュー(1)

10月2日・4日の2日間、「2012 東京国際包装展」(TOKYO PACK 2012)に行ってきました。今年5月にドイツ・デュッセルドルフで開催された drupa 2012 でも、一部で「package drupa」と呼ばれたようにパッケージ市場が大きな注目を集めていました。今回はそうした流れもあって、2日間に渡って情報を収集しました。

会場では、以下のようなトレンドが目につきました:
  1. 店頭での訴求力向上に貢献するラベル・パッケージ
  2. 購入後に効果を発揮するラベル・パッケージ
  3. O2O(Offline to online)の取組み
  4. 小ロットニーズに対応する取組み
  5. 印刷物の高機能化
  6. フレキソ印刷・デジタル印刷の存在感拡大
  7. さらに進化した加飾印刷
  8. カラーマネージメントの進化
  9. ワンストップサービスの提案
  10. 産業用インクジェット + 検査機(注:10月9日追記)
今回の展示会で、マーケティング的に面白い取組みだと感じたのは「2. 購入後に効果を発揮するパッケージ」です。厳しい経済状況で、店頭でのプレゼンテーション能力を高める取組みが進むのは、ある意味想定内です。ただ、店頭でのインパクトが高い商品が、「もう一度買いたい商品」になるとは限りません。

今回、この「もう一度買いたい感」を高める可能性のありそうな提案が、会場でいくつか見られました。例えば、共同紙工(東京・江東)のマルチレイヤー紙ラベル「ヨメルダー」や「Meku Look(メクルック)」は、ラベルの情報量を増やすことで店頭での訴求力を高めると同時に、購入後にそこに書かれているレシピなどを参考に料理やお酒を楽しむことができたりします。

もちろん、3倍・5倍に情報量を増やしたラベルには、レシピ以外にも読み物(連載)やクーポンなど、様々な情報を入れることができます。この内容を工夫することで、消費者の「もう一度買いたい感」を刺激することができそうです。

また、東洋製罐グループの東洋ガラス(東京・品川)が展示していた「内面彫刻」のガラス瓶もマーケティング的に面白いものでした。ガラス瓶の内面に彫刻を施す(表面はツルツルのまま)ことによって、内容物が減っていくとその彫刻した模様が浮かび上がってきます。この彫刻の図柄を工夫することで、「もう一度買いたい感」を高めることが出来ると思います。ただ、残念ながらこの技術はまだ開発中で商品化されていないそうです(写真も撮らせていただけませんでした・・・)。

こうした「もう一度買いたい感」を高める仕掛けは、「店頭での訴求力向上」や「O2O」といった取組みと組み合せて使うことができます。マーケティングサービスプロバイダー(MSP)への転身を図る印刷会社には、こうした仕掛けも「武器」のひとつとして提案していただくと、提案内容がさらに広がり・深みを増すと思います。

今回は、展示会の全体的な印象そしてマーケティング的な視点からの興味深い取組みについてご紹介しました。次回は、「デジタル印刷」の観点からみた TOKYO PACK をご報告いたします。お楽しみに (^ ^)


2012年9月12日水曜日

デジタル印刷成功企業に共通する特徴(2)

今回取り上げる特徴は、「集客や受注に積極的にWebを活用している」というものです。拙訳書「未来を破壊する」において、ウェブ博士は「(印刷会社が)新しいメディアについて信用を得たり、経験を蓄積したりする最良の方法は、それらを頻繁に利用することなのである」と書いています。「未来を破壊する」では、新しいメディアを利用して得た信用や蓄積した経験を顧客に提供することで、印刷会社は売上・利益を伸ばすことができる、と話を進めています。

しかし、デジタル印刷に成功している印刷会社では、新しいメディアにおける経験を「自社の印刷物受注拡大」に結びつけているところも目に付きます。こちらの記事でご紹介した挨拶状ドットコムや英国のmooのような単品型印刷通販会社、「印刷情報9月号」の記事(34ページ)でご紹介した、自社サイトを「Web上での営業担当者」と位置付けたことで新規顧客開拓力を高めた印刷会社などが、例として挙げられます。以前mooでは、「ソーシャルサービス管理担当者」の求人が出ていたのを見て驚いたこともありました。

最近では、発注を受ける端末がパソコン以外にも広まっています。8月にJAGATで開催されたセミナー「未来を破壊する」についての徹底討論会では、JAGATの塚田会長から錦明印刷におけるスマートフォン向け Web to printシステム開発の取組みについてお話がありました。これはまだ始まったばかりではありますが、太平洋印刷はスマートフォンアプリから絵はがきを発注できるサービス「絵はがき」および発注した絵はがきを投函してもらえるサービス「投函しま〜す」を提供されています。

海外に目を向けると、Pic Collageというスマートフォンアプリがあります。これは、スマホで撮影した写真やスマホに取り込んだ画像を切り抜いたり貼付けたりしてコラージュを作ることができるアプリなのですが、これも作成したコラージュをポストカードとして印刷してもらうよう発注することができます(ちなみに、文末の画像がPic Collage で作られたコラージュのサンプルです)。

Webにおける集客方法や発注者が利用する端末は、どんどん変化しています。デジタル印刷に成功している印刷会社は、こうした動きに適切に対応しています。ウェブ博士も、「クライアントの先にいくこと:競合は無視すること」と書いています。クライアントの先にいくことで印刷ニーズを取り込み、デジタル印刷に成功していただきたいと思います。



2012年9月11日火曜日

デジタル印刷最前線 〜「印刷情報」2012年9月号

印刷出版研究所印刷情報」の最新号(9月号)では、『デジタル印刷最前線』という特集が組まれています。この特集で、私も『デジタルをメインストリームに - drupa以降のデジタル印刷サービス成功のポイント』という記事を掲載していただいています。この記事では、以下のような点についてご紹介しています:
  • drupaで紹介された最新機器について
  • それらの最新機器を活用することで見えてきた「デジタルをメインストリームに」できる可能性について
  • 印刷会社が「デジタルをメインストリームに」するために必要な取組みとその成功のポイントについて

また、「B2サイズデジタル印刷機がもたらす市場変化とビジネスチャンス - 現状と可能性を語る」という座談会にも、司会・進行として参加させていただきました。今回、drupa 2012で大きな話題になったB2デジタル機のキープレーヤーである以下の方々にご参加いただいたことで、非常に充実した内容の記事になっています:

『デジタル印刷最前線』には他にも、以下のような印刷会社さんによるデジタル印刷への取組みの事例紹介や用語解説などの記事もあり、とても読み応えのある特集となっています。是非、お読み下さい!





2012年9月10日月曜日

デジタル印刷成功企業に共通する特徴(1)

デジタル印刷に成功されている印刷会社を取材していると、その多くに共通する特徴が見えてきます。これから何回かに分けて、「デジタル印刷成功企業に成功する特徴」についてご紹介したいと思います。

第1回目となる今回は、「戦略・戦術を持って取り組んでいる」という特徴を取り上げます。デジタル印刷サービスという新しい事業を立ち上げるに当たっては、ターゲットとする市場を理解した上で、以下の様な戦略・戦術を明確にすることが求められます:

  • 実現を目指すゴール:売上高・利益率
  • 割り当てる経営資源:人材、生産設備、予算など
  • ゴールを達成するために必要な武器・戦い方
  • ゴール達成までのスケジュール、など

デジタル印刷サービスで売上・利益を伸ばしている印刷会社は、それぞれ独自の戦略・戦術を持って取り組んでいます。以前のブログで、水上印刷の水上社長がセミナーで「印刷会社が業態変革に成功するためには、利益が上がるための事業構想や事業継承も含めた戦略を立てて行動に移すこと」という趣旨の発言をされたことをご紹介しましたが、デジタル印刷成功においてもこうした取組みは有効なようです。

また、「で、『未来を破壊する』と本当に儲かるの?」という記事で、「どうすれば(未来を破壊するための印刷サービスについて)『知っている』から『出来ている』に進むことができるのか?」という問いを投げかけさせていただきました。その方法のひとつとして、この「戦略・戦術を持って取り組む」ことが挙げられると考えられます。

デジタル印刷の取組みで期待通りの成果が上がっていない印刷会社の中には、明確な「戦略・戦術」を持っていないところが少なからず見受けられます。この機会に是非、「戦略・戦術」の策定・実行を通して、デジタル印刷サービスの立て直しを図っていただければと思います。

2012年9月7日金曜日

『未来を破壊する』読書会のススメ

今回は、『未来を破壊する』の内容をより深く理解する方法をご紹介したいと思います。お薦めなのは、「読書会」です。一人で深く読み込むのも良いと思いますが、多くの人と『未来を破壊する』の感想や疑問点などを共有することで、より深くて広い読み方が出来るようになると思います。

ハイデルベルグ・ジャパンでは、営業担当者約40名が夏の間にこの本を読まれ、内容について議論する「勉強会」を8月末に実施されたそうです。また、富士ゼロックス東京でも、早朝に開催されている勉強会でこの本を取り上げていただきました。

会社の垣根を越えた有志の読書会ではより幅広い視点での議論が行われることから、社内での読書会とはまた違った成果が出ると思います。私も先日、先日のブログでも触れましたが、こちらの読書会に参加させていただきました。この読書会では、印刷業界の方に加えてメディアプランナーやコンテンツプロデューサー、システムエンジニアなど様々なご参加者から鋭いごご意見をいただき、改めて本書についての理解を深めることができました。

読書の秋には是非、『未来を破壊する』をお読みいただければと思います。そして、この本についての「読書会」を開催してこの本についてのご理解を深めていただき、また「未来を破壊する」ための第一歩を踏み出す切っ掛けを得てください。

その際、「本の内容を説明してもらったり、内容についての質問に答えて欲しい」ということがありましたら、是非お声がけください。私は翻訳者なので著者の意図を十分にお伝えできるかは分かりませんが、皆さまとの意見交換・質疑応答や、現在の日本市場の状況を踏まえた読み方をご紹介することを通じて、皆さまが「未来を破壊する」お手伝いができればと思います。

2012年9月5日水曜日

で、『未来を破壊する』と本当に儲かるの?

これまでにこのブログで何度も「印刷会社は売上・利益を伸ばすために『未来を破壊』することが必要不可欠」と書いてきました。ただ、破壊の仕方によって売上・利益の伸び方に違いは生じる可能性はあると、私は考えています。

では、どのような「破壊の仕方」だと売上・利益が大きく伸びるのでしょうか。『未来を破壊する』の内容や日本市場で売上を伸ばしている印刷会社の動向を分析した結果、以下のような3点を組み合わせた印刷サービスの企画・実現することが効果的なようです:
  1. 新しい市場を開拓する。
  2. Web を集客や受注のために積極的に活用する。
  3. 常にジョブ当たりの業務コストを把握でき、削減できる仕組みを構築する。
「1. 新しい市場を開拓する」のは、既存の印刷市場でジョブを獲得したとしても、既に激しい価格競争が進んでいることから利益を伸ばすことが難しいためです。新しい市場としては、例えば『未来を破壊する』で紹介されているような「様々なメディアの活用支援を求める市場」や先日のブログで紹介したような「小ロットサービスを求める市場」などが挙げられます。もちろん、これら以外にも魅力的な「新しい市場」はあります。

「2. Webを集客や受注のために積極的に活用する」については、ウェブ博士がご指摘されているように、クロスメディアサービスを提供する会社は様々なメディアの使い方を把握する必要があることから、Webを活用することが求められます。また、小ロットサービスを提供するためには営業コストを抑える必要があることから、やはりWebを集客・受注に積極的に活用することが必要不可欠になります。

また、印刷会社が利益率を高めるためには、印刷物の生産に直接関わるコストに加えてジョブの獲得にかかる営業費用や管理コストなども含めた「ジョブ当たりの業務コスト」全体を「3. 常に把握でき、削減できる仕組みを構築する」ことも重要になります。

これらの3点について、「そんなこと知っているよ」と仰る印刷会社は少なくないかと思います。しかし、「そんなこと出来ているよ」という会社はそれほど多くはないでしょう。私が存じ上げている範囲ではありますが、厳しい市場環境の中で『儲けている』印刷会社の多くは、これら3点を組み合わせた『未来を破壊する』方法に実際に取り組んでいるところなのです。

では、どうすれば「知っている」から「出来ている」に進むことができるのでしょうか?今回のブログも長くなってしまいましたので、ご興味がある方は別途お問い合わせいただければと思います。

2012年9月3日月曜日

『未来を破壊する』ためには決断することが必要不可欠

先週は、月曜日(8月27日)にJAGATさんで開催された『未来を破壊する』徹底討論会に参加し、土曜日(9月1日)にはこの本についての有志での読書会に参加しました。こうしたイベントにご参加された皆さんのご意見をお伺いする中で、印刷業界の暗澹たる未来を破壊するためには、「新しい常識」に沿った印刷サービスを確立・提供することに加えて、そもそも『未来を破壊する』ことに対する強い思いというか決心が必要不可欠であることを、改めて確認しました。

『未来を破壊する』では、そうした気持ちの部分について、例えば「起業家精神」という言葉で表現されています:

  • 究極的に必要なことは、印刷会社のオーナーが起業家精神を再度持つことである。「再度持つこと」と言ったが、印刷会社はかつて、今よりもずっと起業家精神が旺盛であった。しかし今では、印刷産業は起業家精神を失っている(第4章より)。
また、初版・第2版では未訳の部分(原書の157ページ)では、起業家精神について以下の様なこともかかれています:
  • 起業家とは、他の誰も持っていないアイデアを持ち、それに従って行動する人々のことである。彼らは市場の中に、他の人には見えないビジネスやサービス、製品を見ることができる。
  • 起業家は、人々が考えるようにリスクを取る人ではない。実際には、リスクを最小化しているのだ。目を大きく開けて状況に入り込み、自分が失敗を犯す危険に十分注意を払っている。
『未来を破壊する』のイントロダクション部分では、ビズケイト社(日本語版ではビズケア社となっていますが、お持ちの方は修正お願いします・・・)の創立者・社長であるピーター・ムイアー氏が、こうした起業家精神を発揮するかそれともしないかを、以下のように読者に問いかけています:
  • ジョー・ウェブ博士とリチャード・ロマノ氏は、あなたが外へ出て顧客の意思決定やコミュニケーションのプロセスに加わる方法を示すために、この本を著したのである。
  • 外へ出る価値があるのか、あるいは状況が良くなるのを願いながら同じことを繰り返し続けるのか、本書の読後にあなたは決断しなければならない。
多くの印刷会社にこうした「決断」についてお伺いすると、「もちろん『同じことを繰り返し続ける』という選択肢は無いよね」というお答えが帰ってきます。しかし、「よし、外へ出るぞ!」という決断をされる方は、私の経験からは限られているように思います。

『未来を破壊する』ためには、「外へ出るぞ!」という決断が必要不可欠です。先行きが不透明な市場環境において、外へ出るのは勇気が必要なことだと思います。しかし、「状況が良くなるのを願いながら同じことを繰り返し続け」ていても、先の展望は開けません。

このブログを読まれた方には、是非勇気を持って「外へ出る」(新しい取組みを始め、そして継続する)という決断をして、未来を破壊する取組みを始めていただければと思います。もし、こうした取組みに対するお手伝いが必要な方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせ下さい (^ ^)