六代目 中村歌右衛門は、20世紀を代表する歌舞伎役者の一人です。1941年(昭和16年)に中村芝翫、そして1951年(昭和26年 )に六代目 中村歌右衛門を襲名し、1968年(昭和43年)には重要無形文化財保持者(人間国宝)になりました。特に女方として有名で、交友のあった文豪 三島由紀夫の小説「女方」に登場する女方歌舞伎役者は、六代目 中村歌右衛門がモデルになっています。
おそらく、芝翫/六代目 歌右衛門は、写真にサインするのにお化粧道具の「紅」と「筆」を使っていたようです。目元や口元を彩るのに使われた紅でサインするなんて、とっても艶っぽいです。筆で書かれた文字も、芯が通っていながらもふくよかで柔らかな印象で、色気を感じます。これらのサイン入り写真をいただいたファンは、とっても大事にしたことでしょう。
残りの2枚の写真(六代目 歌右衛門時代)は、細い緑色のペンでサインされています。抑揚をつけるのが難しいペンで書くのに慣れていなかったのか、(筆でのサインと比べて)硬く感じます。丁寧に書かれているのに残念です・・・
ところで、歌舞伎役者がサインを入れるようになったのは、いつ頃からだったのでしょう?江戸時代の浮世絵には役者をモチーフにした作品がたくさんありますが、不勉強なこともあって、存じ上げません。
また、サインにお化粧道具を使ったのはいつ頃始まり、そしていつ頃終わったのでしょう。万年筆でサインされた映画俳優の写真は目にすることが多いのですが、お化粧道具でサインされたものは寡聞にして存じません・・・
歌舞伎についての知識が全くありませんので、これらの写真がどの演目のどの役、そしていつ撮影されたものかも分かりません。かろうじて、緑色ペンでサインされたうちの1枚が、「連獅子」の「親獅子の精」だということくらいです(撮影年は分かりません・・・)。歌舞伎に詳しい方、ぜひお教えいただければと思います。
プリントは、情報を伝達するだけでなく、それにまつわるものにも触れそして深めるきっかけにもなります。いやぁ、プリントって本当にいいものですね!